毎年10月15日から17日にかけ、神宮(伊勢神宮)に於いて神嘗祭が執行されます。この祭祀は今年収穫された新穀(お米)を天照大神にお供えする行事です。
神宮における神嘗祭に私が最初に参拝したのは昭和48年でした。高田好胤管長さんのお伴をして、16日の夜の9時ごろ内宮の正殿前に整列しました。その時の参列者は高田管長さん、音楽家の黛敏郎さん、皇学館大学の西山徳先生、内宮門前にある勢乃國屋当主の山中隆雄さん、そして私の5人でした。薬師寺の僧侶となったばかりの私は、お伴としてついて行っただけで、伊勢が、神嘗祭が何の事だか全く理解もしていませんし、何も見えない真っ暗な中で寒さに震えながら小一時間立ったまま待っているだけでした。
10時前になり、やっと玉砂利を踏むサクサクという音と共に遠くからトントンという太鼓の音が聞こえ、徐々に近づいてきました。始まりを告げる太鼓の音に、さすがに私も一瞬緊張しました。暫くして60~70人の白の衣帯(装束)に正装した神職の行列が松明に照らされて正殿に進まれました。真っ暗で何も見えません。柏手を打つ音と祝詞を唱える声が正殿の中から時折りかすかに聞こえるのみでした。
神事の事など何も知らない私でも、永々と続けられている厳かな神嘗祭が如何に重要であるかが理解出来ました。
稲作の起源は、天照大神が天孫降臨に際し、お孫さんの天津彦彦火瓊瓊杵尊に稲を授け「斎庭の稲穂」でもって中つ国を平定すれば国が栄えるであろうという神勅によります。それによって稲づくりが始められ、豊葦原千五百秋瑞穂国と呼ばれるようになりました。そのため天皇陛下が天地自然のお恵みに感謝すると共に、新穀をご先祖様である天照大神に献じる祭祀が神嘗祭です。
お米作りの大切さと共に大いなる天神地祇に対し、収穫を感謝する心を再確認してください。
合 掌
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