令和2年7月6日から毎週月曜日、152回に亘って続けさせて頂いていた「千文字説法」が、令和5年5月29日で一時中断してしまいました。原因は5月下旬に風邪をこじらせ、肺炎になってしまったからです。最初は咳と鼻水が出る程度で、薬局で購入した風邪薬を服用したのですが、飲み忘れて風邪位と油断していて結局肺炎になってしまいました。「風邪は万病のもと」「油断は怪我のもと」の諺を実感しました。今は健康を取り戻しました。健康であることの有り難さを実感しています。

 「油断」は『北本涅槃経』22に「王、一臣に勅す、一油鉢を持ち、由中を経て過ぎよ、傾覆することなかれ、もし一滴を棄せば、まさに汝の命を断つべし」とあります。
 王様が家臣に油鉢を持たせ宮殿を歩かせ、もし油を一滴でもこぼせば、お前の命を断つと告げ、刀を抜いて家来をその家臣の後に付けさせました。鉢を持った家臣は、注意深く油鉢を持ち宮殿内を歩き一滴も油をこぼすことがなかったといいます。
このように緊張して注意深く歩くことで、油をこぼすことがなかった事から「油断」という言葉が生まれました。

 また、神佛に捧げる大切な御供物は香を薫じ、花を生け、灯明を絶やさぬことです。そこから「油断」という言葉が生まれたと言われています。
「油断」は心の隙、気の緩み、気のたるみ、緊張感の欠如、注意を怠ると言う事でありましょうか。

 更に、前漢時代(紀元前2世紀頃)、淮南子えなんじ王が学者を集めて編纂させた思想書に「よく泳ぐ者は溺れ、よく乗る者はつ」と教えられています。
 「水泳の達人が油断をして溺れることがあり、乗馬の名人がその術に得意になって落馬することがある。人は得意とする面では油断をするので、人は自分が得意とすることで失敗しやすい。」という教えです。
 「猿も木から落ちる」や「弘法も筆の誤り」「上手の手から水がこぼれる」も日常的で身近な教えです。

 本当の敵は他にあるのではなく、自分自身の気の緩みこそ、一番の大敵だということを実感しました。あなどって気を許し、失敗しない様に注意を怠らず緊張感を保つことです。身の引き締まる思いです。

合 掌



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