昔ある国にボンマダツという王様がいました。自分だけ美味しいものを食べていればいい。百姓は不味いものを食べていろ。自分さえ立派な御殿に住んでいればいい。百姓はぼろ屋に住んでいろ。身勝手なことばかり言って、豚のように太った身体を反り返らせて威張っていました。
 百姓たちは重い税金を取り立てられていたので、誰もがガリガリに痩せていました。御殿を建てる仕事に無理やり引っ張り出されて牛や馬のようにこき使われていたので、ヘトヘトに疲れていました。王様に刃向かうとひどい目にあわされるので、黙って辛抱していました。
 ある朝、ボンマダツ王は大臣に、すぐに十人の狩人を集めて来いと命令しました。集まった狩人に「毛が金色で、光輝くコダという怪獣を捕まえ、その毛皮を採ってこい」と命令しました。狩人がそんな怪獣がいるのですかと訊ねると、「わしが夢で見たのだからおる。国中の山を探せ。採ってこなければ、お前たちの妻も子も皆殺しにする」と我儘し放題です。狩人は相談しました。すると中の一人が、妻も子もいないので私が行きますと引き受けてくれました。夏の最中険しい山を越え、深い谷を渡って探し回りましたが、怪獣など見つかる筈もありません。とうとう疲れ果て、高い熱を出し倒れてしまいました。「助けてくれ。苦しい」と叫んでも深い山の中ですので誰も来てくれる筈がありません。
 ところがその時、ガサガサと音がして茂みから出て来たのは、見たこともない獣でした。獣は倒れている男を見ると一旦姿を消しましたが、すぐに戻ってきました。よく見ると身体がびしょびしょに濡れていました。獣は濡れた身体を男に押し付けて冷やしてやりました。獣は男を抱きかかえ谷川の河原に行き、頭を冷やしてやったり、果物を取ってきて食べさせてやりました。元気になった男は「命を助けてくれて、ありがとう」とお礼を言いました。獣の姿を初めて見た男は、目を丸くして驚きました。目の前にいる獣こそ、探していた「怪獣コダ」に間違いなかったからです。男は刀を振り上げコダを切りつけようとしましたが、命の恩人を殺すことはできません。しかしここで怪獣を捕まえなければ、仲間の妻や子まで殺されることになってしまう。男は心を鬼にして刀を振り上げました。でも刀を振り下ろすことが出来ません。苦しむ男に、コダは「どうしたのですか」と訊ねました。男はその訳を正直に話しました。コダはにっこり笑って答えました。「私の命で大勢の人の命が助かるのであれば喜んで毛皮を差し上げましょう」コダは男から刀を奪って、自分の胸に突き刺しました。「さあ早く私の毛皮を持って帰りなさい」。
 毛皮を背負って帰ってきた男は、仲間の狩人に大喜びで迎えられました。毛皮を持って、すぐに王様に届けました。見事な毛皮を見た王様は、男に褒美を与えるといってご機嫌でした。男は「褒美はいりません」命を投げ出したコダの心を思うと、とても受け取ることはできませんでした。王様は「自分で死ぬなんて、馬鹿な奴だ」と大声で笑いました。
 丁度その時、ものすごい音と共に御殿が揺れました。「大地震だ」男は外に逃れる事が出来ましたが、豚のように太った王様は潰れた御殿の下敷きになって死んでしまいました。そんなことがあってから、この国にはとても平和な暮らしが戻ったそうです。『賢愚経』第三

 王様の我儘に苦しめられている皆の命を救うために「怪獣コダ」は自分の命を躊躇することなく差し出しています。たった一つしかない尊い命を差し出すことは、とてもできそうにありませんが、時に我々は自己中心で、国民のことなど全く考えていない王様のように振舞ってしまうということに気付かなければなりません。皆が我儘に振舞えば世の中の調和が乱れてしまいます。身勝手なボンマダツ王は誰の心にも棲んでいるのです。

合 掌



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