遠い昔、コーサラ国の舎衛城にベーデーヒカーという女性が住んでいました。「親切で、謙遜で、静かであると」大層評判がいい女性でした。
 お手伝いさんで働き者のカーリ(迦利)は、ベーデーヒカーの身の回りお世話をしていました。ある時カーリは「私のご主人様は、まことに聞こえが良いが、内心に怒りを持っていて、それを外に現さぬだけではなかろうか。これまで一所懸命に尽くしてきたけれど、内心は腹を立てていても、外に現さないだけではなかろうか」と感じました。
 そこで試してみようと思い、カーリは朝寝坊をして漸くお昼前に起きてきました。するとベーデーヒカーは、「カーリよ、今日は大層遅いではないか。何故この様に昼前まで寝ているのか。」と小言を言いました。カーリが「いつまで寝ていてもご主人様には関係のない事で御座います。」と答えると、ベーデーヒカーは額に怒りの筋をよせて「何でもない事であるものか。」と腹を立てました。
 そこでカーリは前より更に遅くまで寝ていました。「カーリよ、何故お前はこんなに遅くまで寝ているのか。」「早くても遅くてもあなたに何の関係もありません。」「どうして関係ない事があるものか。不心得者。」とひどく腹を立て、遂には怒りを抑えきれず、棒を取ってカーリの頭を殴りました。
 傷を負ったカーリは、血まみれになって屋敷を飛び出し、声高に恐怖を訴えました。「親切なベーデーヒカーの仕業を見て下さい。『遅く起きた』と言って棒で私の頭を殴りつけました。」
 数日後「ベーデーヒカーは恐ろしく乱暴な女である」との評判(うわさ)が立つようになりました。

 お釈迦様は、弟子たちに向かって語り掛けられました。「誰でも不都合な言葉が自分に聞こえない間は親切で、謙遜で、静かなものである。それが自分に聞こえた時は、真実の心が露見するものである。」
 「弟子達よ、この比喩(たとえ)の教訓(いましめ)を繰り返し心に思い、考えるがよい。それは汝らにとって永久(とこしえ)の利益と幸せになるであろう。」とお話になりました。『牟犁破群那経むれいはぐんなきょう

合 掌



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