佛教発祥の地でインドにおける現在の宗教は、ヒンズー教、イスラム教、ジャイナ教、シーク教、キリスト教、ゾロアスター教、佛教です。
 中でもヒンズー教はインドやネパールで多数派を占める民族宗教です。キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、佛教を世界四大宗教と呼んでいますが、インドで佛教は12世紀に滅亡してしまいました。現在あるインドの佛教は、お釈迦様在世当時の佛教ではなく、新佛教と言われています。

 紀元前20世紀から紀元前15世紀頃にかけ、狩猟民族であるアーリア人は、現在のイランやイラクから食料を求めて肥沃なインド北西部に侵入しました。そして農耕民族で土着のインド人であるドラヴィダ人等を支配し、階級制度のカースト制(身分)を作り出しました。侵入者であるアーリア人は、自らを司祭階級のバラモン、王族・貴族のクシャトリア、一般市民のベイシャ、奴隷のシュードラと4階級を設けました。さらにドラヴィタ人をはじめ土着の民族をチャンダーラと位置づけ、人としての価値を認めませんでした。
 基本的な4つのカーストでバラモンは、自然界を支配する能力を持ち、神聖な職について儀式を行いました。クシャトリアは、王や貴族で武力や政治力を持ちました。ベイシャは、商業や製造業など一般の平民です。シュードラは、下層の職業に付く奴隷です。
 インド社会は、輪廻転生など宗教観念を共有しながら、長い歴史を経て生活に深く根付いた習慣やカースト制に従って、多様な生活を3,500年に亘り変えることなく続けてきました。
 カーストによる階級制度は、1950年独立を期に憲法で禁止されましたが、未だに改善されることなく続いています。
 インドに侵入したアーリア人は紀元前15世紀頃本格的にヴェーダ聖典を成立させ、これに基づくバラモン教に神の名の下、民間の宗教を敢えて受け入れヒンドゥー教へと進化させ、インドの民族宗教として民衆に浸透し現在に至っています。
 インド社会は、神々への信仰と同時に輪廻や解脱といった宗教観念を前面に打ち立て、カースト制を継承し、世の中の出来事の全ては神が司ると決めつけました。ヒンズー教はバラモン教から聖典やカースト制度を引き継ぎ、土着の神々や崇拝様式を馴染ませながら徐々に形成されてきた多神教です。

 ヒンズー教で中心となる三大神の特徴は、創造を司るブラフマー神、維持を司るヴィシュヌ神、破壊を司るシヴァ神で、それぞれ神妃をもち、夫婦共に多様な化身をする事が出来ます。
 宇宙創造の神であるブラフマー神は、水鳥ハンサに乗り老人の姿で表されています。佛教では梵天と名乗ってお妃様であるサラスヴァティは弁才天です。
 宇宙維持の神であるヴィシュヌ神は、慈愛の神ガルーダに乗り、お妃様のラクシュミーはヴィシュヌ神の富と幸運を司り、佛教においては吉祥天と呼ばれています。お釈迦様は、ヴィシュヌ神の9番目の化身とされていて、佛教はヒンズー教の一派とされています。
 宇宙破壊の神であるシヴァ神は、牡牛のナンディンに乗り結跏趺坐し瞑想する姿で描かれています。シヴァ神の化身であるマハーカーラは、佛教において大黒天として信仰されています。
 ヒンズー教では河川崇拝が顕著であり、水を使った沐浴の儀式が重要視されています。特に恒河(ガンジス河)は水そのものがシヴァ神の身体を伝って流れ出て来た聖水とされ、川自体も女神であるため「母なる河ガンジス」として河川崇拝の中心となっています。ガンジス河には沐浴場(ガート)が設けられた聖地があり、ヒンズー教徒は、ガンジス河の水に頭までつかって罪を清め、あるいは水をお供えしています。
 またヒンズー教では牛は使者として崇拝の対象となっていて、神話にも度々登場し、実社会でも移動・運搬・農耕に用いられ、乳を供し、乾燥させた牛糞は貴重な燃料です。
 インド社会の営みは様々で、単純に理解し難く、自然環境や歴史的背景によってそれぞれの信仰に支えられています。

合 掌



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