般若心経の一節に「眼耳鼻舌身意」とあります。これを六根ろっこんと言い、六つの認識能力です。人は五根ごこん(眼耳鼻舌身)である眼で色や形を見て、耳で音を聞いて、鼻で香りを嗅いで、舌で味わって、身で触ったものを、意で確認しています。
 人間の五根による知覚の割合は、視覚が7割から8割で、2割から3割が聴覚、嗅覚、触覚、味覚といわれています。人間が受け取る情報のうち、殆どが視覚からの情報です。
 また八正道はっしょうどう(八聖道)の教えは、理想の境地に達する為の八種の実践徳目の生活態度です。邪を離れるので正といい、聖者の道であるから聖といいます。八正道は正見しょうけん正思しょうじ正語しょうご正業しょうごう正命しょうみょう正精進しょうしょうじん正念しょうねん正定しょうじょうです。八正道に於いても見る事が最初に登場します。

 般若心経に登場する「観」や「見」の他「みる」の漢字を例にとると沢山あり、思い付くだけでも20種を越えて存在しました。
①観 カン    みる     広く見る 注意して見る 細かく見る 視より更に念入りに見る
②見 ケン    みる     物を見る 見聞けんぶん
③視 シ     みる     気をつけてよく見る 熟視じゅくし
④看 カン    みる     目の上に手をかざしてよく見る 看病かんびょう 
⑤察 サツ    みる     考えて見る よく見る 調べる 視察しさつ 察知さっち
⑥覩 ト     みる     確かにこの目で見た 目覩もくと
⑦睹 ト     みる     じっと見る 睹聞ともん
⑧覧 ラン    みる     一通り目を通す 一覧いちらん
⑨瞰 カン    みる     うつむいてみる 俯瞰ふかん 鳥瞰ちょうかん
⑩矚 ショク   みる     心をとめてじっと見つづける 眺矚ちょうしょく
⑪瞻 セン    みる     仰ぎ見る 瞻仰せんごう
⑫診 シン    みる     脈を診る 病状を調べる 診察しんさつ
⑬監 カン    みる     上から見下ろす 見張りをする 監視かんし 監督かんとく
⑭瞥 ベツ    みる     目をかすめる ちらっとみる 一瞥いちべつ
⑮覯 コウ    あう     思いがけなく出会いみる 希覯きこう
⑯覲 キン    まみえる   下の人が上の人にまみえる 参覲交代さんきんこうたい
⑰睨 ゲイ    にらむ    斜めにみる 睥睨へいげい 流し目にみる 覗きみる
⑱覗 シ     うかがう   細い隙間からみる のぞく
⑲覘 テン    うかがう   細い隙間からみる 覗き見する さぐりみる 覘候てんこう
⑳眺 チョウ   ながめる   遠方を望みみる見渡した景色 遠眺えんちょう
㉑望 ボウ モウ  のぞむ    遠くを見渡す 眺望ちょうぼう
㉒臨 リン    のぞむ    高い所から下を見下ろす 光臨こうりん
㉓眷 ケン    かえりみる  振り返り見る 目をかける
㉔相 ソウ    あい     物の格好を見て目利きをする 念入りに見る 手相てそう

 経典を翻訳する時、訳語の漢字が内容に適格かどうかを判断する「証義しょうぎ」という役があるように、事実に即した語彙や漢字を選んで正しく伝える事が大切です。

合 掌



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