諸人よ 思い知れかし 己が身の 誕生の日は 母苦難の日

お誕生日は自分が生まれた日だから、家族や友人から祝福を受けるのが、当然と思っています。私たちがこの世に誕生した日は、母親が最も苦労した日です。
 水戸の黄門様は、自らの誕生日は敢えて粗末な食事をされたそうです。その理由は、「誕生日は祝うべき日であるよりも亡き母上を最も苦しめた日であって、それを思うと、お祝いをする事より母上のご苦労を思い、せめて誕生の日は粗末な食事で母上のご恩に感謝したい」と語られたそうです。

 私たちの誰もが、両親から生まれてきました。そのご両親もそれぞれご両親がおられます。自分からすると4人の祖父と祖母です。その4人の祖父と祖母にまたそれぞれご両親がおられます。8人の曾祖父と曾祖母です。
 両親のお名前は知っていますね。4人の祖父と祖母のお名前もわかるとしましょう。それでは8人の曾祖父と曾祖母のお名前を尋ねられると、8人全ての名前どころか、知っているとしても1人か2人。その中の誰か一人でも存在していなかったら、今の自分の存在もあり得ません。全ての命は、太古の昔から途切れることなく連綿と繰り返されていて、自分の命は自分だけのものだと考える事は間違いです。数えきれない大勢のご先祖様の命が、私たち一人一人の命に繋がっていることを自覚しなければなりません。つまり大変な数のご先祖様の命が、私たちの命となり次の命に受け継がれています。
 誕生日は命がけで生んで下さったお母さんや毎日の成長を見守って下さったお父さんに、感謝を捧げる日です。 ここで命の誕生を考えてみると、母親の胎内に宿った瞬間を「生有しょうう」といいます。次の瞬間から「本有ほんう」です。本有は「胎内の本有」と「胎外の本有」があります。母親のお腹に宿った瞬間からオギャァと生まれるまでの間を「胎内の本有」。十月十日とつきとおかの間、授かった命をお腹の子の為に様々な事に気を遣って、大切に護り育てて下さいます。

 『父母恩重経ぶもおんじゅうきょう』に「父母ちちははの恩重き事、天の極まりなきが如し」とあり「懐胎守護かいたいしゅごの恩 臨生受苦りんしょうじゅくの恩」等父母に十種の恩徳があると述べられています。 出産に際し最大の苦しみを受け、新しい命が誕生する瞬間、母親は「忽然こつねんとして身を亡ぼす」とあり「子の声を発するを聞けば、己も生まれ出でたるが如し」とあります。 親が子を産み育てるという営みは、大変な苦労や犠牲がありました。連綿と続く「命」の最先端にいるのが私たちです。
 誕生日が来ると、私たちは一歳ずつ年を重ねます。年齢を数えるのに、「零歳」とする数え方は間違いです。「零」は何も存在しないと言う事で、新しい命を無視する事となります。母親の胎内で生命が誕生した時点から十月十日(38週間 266日)、人として育てられてきました。だから年齢の数え方はお母さんの胎内の時間を含め「数え歳」で数える事が正しい数え方です。 もう一度「諸人よ 思い知れかし 己が身の 誕生の日は 母苦難の日」と繰り返して命の尊さを再確認し、ご両親に感謝の誠を捧げる意義ある誕生日となります様に。

合 掌

画像:高田好胤和上書「母」



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