私たちは、日頃から思い込みや思い違いをしてそれが正しい事だと認識しています。 落語の蒟蒻問答に禅問答の件があり、勝手に思い込んだ二人の遣り取りが滑稽です。

 上州安中に六兵衛という蒟蒻屋がいました。かつては江戸にいましたが、今は田舎暮らしをしています。六兵衛は面倒見の良い親分肌で、江戸から六兵衛を頼って訪ねてきた八五郎は、いつまで経っても江戸に帰りたがらず仕事もしたがりません。 困った六兵衛は近所の禅寺が無住だったことを思い出し、八五郎にそこの坊主になることを勧めます。
 ある日、越前永平寺の僧侶で托善と名乗る旅僧が訪ねて来て、この寺の住職と禅問答をしたいと申し込んできました。 禅問答などしたこともない八五郎は、「住職は今出掛けているから」と嘘をついて旅僧を追い返そうとしますが、旅僧は和尚の帰りをいつまでも待つ、と一歩も引きません。すると六兵衛が「俺が住職のふりをして何とか追い返してやる」と申し出ます。
 佛教のことなど何にも知らない蒟蒻屋の六兵衛は、袈裟を着て住職になりすましましたが、六兵衛は、禅問答の知識など全くありません。翌日六兵衛と旅僧は問答を始めますが、住職に成りすました六兵衛は、何も答えません。 旅僧は、六兵衛の事を無言の行であると勝手に思い込み、身振り手振りで問いかけます。六兵衛も身振り手振りで答えました。
 旅僧が両手で胸の前に小さな輪を作ると、六兵衛は腕を使って大きな輪を作りました。それを見た旅僧は叩頭こうとうします。しからばと旅僧が十本の指を示すと、六兵衛は片手を突き出して五本の指を示し、再び旅僧は叩頭します。 更に旅僧が指を三本立てると、六兵衛は片目の下に指を置いて示しました。そこで旅僧は恐れ入りましたと逃げて帰りました。
 陰から様子を見ていて驚いた八五郎は、旅僧を追い掛け逃げ帰った理由を訪ねました。旅僧曰く「途中から無言の行と気付き、こちらも無言でお尋ねしました。『和尚の胸中は』と問えば『大海の如し』と。では、『十方世界は』と問えば『五戒で保つ』と。 更に『三尊の弥陀は』と問えば、『眼の下にあり』とのお答えでありました。とても拙僧がおよぶ相手ではない」と語り、憔悴しょうすいして帰っていきました。
 何故帰ってしまったのか理解できないままの六兵衛は啞然としていました。六兵衛曰く「あの坊主はふざけた奴だ、途中で俺が偽者の住職でただの蒟蒻屋だと気付きやがった。『お前ん所の蒟蒻は小いだろう』とバカにしたので、『こんなに大きいぞ』と返してやった。 坊主は『十丁でいくらだ』と聞くから『五百文』と答えたら、『三百文にまけろ』と値切ってきたから『あかんべぇ』をしてやった」と。
自分の作っている蒟蒻にケチをつけていると思い込んで答えただけでした。
皆様も間違った思い込みをして、全く違う結果になった事はありませんか。

合 掌



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