お釈迦様が王舎城おうしゃじょう霊鷲山りょうじゅせんで多くの人々に説法されている時の事でした。 マカダ国の阿闍世王あじゃせおう(アジャータサッツ)は説法の後、お釈迦様に布施としてお食事を供養されました。 阿闍世王は耆婆大臣ぎばだいじん(ジーヴァカ)に、次にお釈迦様への布施は何が良いのであろうかと相談しました。すると腹心である耆婆大臣は、次は燈火ともしびを布施しては如何でしょうかと提案しました。 阿闍世王は耆婆大臣の提案を聞き入れて、早速燈火を布施する事に決めました。そこで、百石の胡麻の油を整え車に乗せてお釈迦様に布施しました。
 この時、王舎城に一人の貧しい老婆が住んでいました。この老婆は日頃からお釈迦様に供養を捧げたいと願っていました。しかし孤独貧困の身ではどうする事も出来ません。 阿闍世王が胡麻の油を供養する車に出会った老婆は、深く感激して自分も燈火の供養を思い立ちました。一文無しの老婆は胡麻の油を買うお金がありません。そこで老婆は長く伸ばした髪を切り、僅かな対価を得る事が出来ました。 老婆は油屋へ出掛け胡麻の油を求めました。この金額では油を求めるには到底足りません。老婆の様子を見ていた油屋の主人は、尋ねました。「お腹が空いているのでしょうに、なぜこのお金で食べ物を買わないのですか。油では命を繋ぐ事はできませんよ」すると老婆は、 「一生の間に一度しかお釈迦様に会う事が出来ないと私は聞いています。ところが今幸いにも私はお釈迦様と同じこの世に命を頂く事が出来ました。この会い難いお釈迦様に会いながら今まで貧乏の為、供養を捧げる事が出来ませんでした。 今日王様が胡麻の油を整えて燈火の供養をされると聞いて、私もじっとしていられず、心ばかりの一燈を捧げたく願っております。」この話を聞いた油屋の主人は、老婆の誠実な心を感じ、油代にも満たない僅かな金額であるにも拘らず、胡麻の油を分けてあげました。 老婆はこれだけの油では僅かな時間しか燈す事が出来ないけれど、心を込めてお釈迦様に燈火を捧げました。
 阿闍世王の献じた燈火は赤々と燃えました。しかし風に消え、油が尽きて消えましたが、老婆の燈した燈火は、烱々けいけい(註・光り輝く事)として夜通し燃え続きました。
 お釈迦様は数の多少に拘わらず老婆の一心に注いだ布施の心を讃えました。阿闍世王もこの教えに深く感動して更に佛道の実践に勤みました。

阿闍世王あじゃせおう授決経じゅけつきょう

合 掌



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