お釈迦様以前にお悟りを開かれた六人の佛様と、お釈迦様を含む七人の佛様を過去七佛と呼んでいます。七人の佛様が共通してお説きになった基本的な教えを七佛通誡偈しちぶつつうかいげと呼び、『法句経ほっくきょう』や『出曜経しゅつようきょう』 『法集要頌経ほうじゅうようじゅきょう』に説かれています。

七佛通誡偈しちぶつつうかいげ
諸 悪 莫 作しょあくまくさ もろもろの悪を作すこと莫かれ
衆 善 奉 行しゅうぜんぶぎょう もろもろの善を奉じ行い
自 浄 其 意じじょうごい 自ら其のこころを浄くする
是 諸 佛 教ぜしょぶつきょう 是が諸佛の教えなり
『法句経』下(正蔵四・五六七中)

どのような悪業あくごうを行う事もなく、様々な善業ぜんごうを行い、自らの行動により、自らの心を清らかにする、それが佛がみな口を揃えて説く教えの基本です。『出曜経』『法集要頌経』

 七佛通誡偈にこんな逸話があります。
中国唐時代の詩人で白居易(白楽天と呼ばれることもある)は杭州の長官として赴任しました。白居易は、木の上で座禅をしている禅僧(道林禅師)がいる事を知って、一度会って話をしてみたいと思いました。 その道林禅師は、毎日松の木の上でまるで鳥の巣に籠って坐禅をしているようなので、鳥窠禅師と呼ばれていました。
 白居易は、ある日かねてから興味を抱いていた道林禅師を訪ねてみました。道林禅師が座禅をしている松の木の下で、「そんなところで座禅をしていると危険ではありませんか」と声を掛けました。 すると道林禅師は、「私にはあなたの方が危険に見えるのです」と一言答えました。白居易は「私は杭州の長官として赴任している白居易です。この辺りは全て私が治めています。何の危険がありましょうか」と答えました。 道林禅師は「煩悩の火が燃え上がっていて、どうして危険がないと言えるのでしょうか」と心の穢れを問い質しました。詰問された白居易は更に「佛教の真髄は何か」と質問を重ねると、道林禅師は「諸悪莫作 衆善奉行 自浄其意 是諸佛教」と答えました。 白居易は道林禅師の答えを聞いて、「そんなことは三歳の童子でも知っていますよ。そんな事より佛教の極意を訊ねているのです」と続けました。すると道林禅師は「三歳の童子これを知れども、八十歳の老人実践しがたし」と答えました。 白居易は道林禅師のこの言葉を聞いて自らの至らなさを悟り、礼拝し早々に帰って行ったのでした。
 悪をなさず、善を行い、自ら心を浄める七佛通誡偈の教えは、簡単なようでなかなか実行するのは難しいことです。しかし難しい事ですが、当たり前の身近な教えです。知識として理解している事と、実践をして得られる智慧とは全く異なっています。

合 掌



「加藤朝胤管主の千文字説法」の感想をお手紙かFAXでお寄せください。
〒630-8563
奈良市西ノ京町457 FAX 0742-33-6004  薬師寺広報室 宛