お正月のご本尊である吉祥天の功徳は「金光明経こんこうみょうきょう」や「金光明最勝王経こんこうみょうさいしょうおうきょう」に説かれており、 悔過懺悔行けかさんげぎょうを通して、除災・増益を願い、国家安穏・五穀豊穣・天下泰平・風雨順次を祈念するものです。悔過とは日頃犯した罪を佛様の前に懺悔して除災招福を祈願するもので、 朱鳥あけみどり元年(686)以来奈良の大寺おおてらでは毎月勤められました。中でも吉祥悔過きちじょうけかは、 神護景雲じんごけいうん元年(767)正月に諸国国分寺において恒例化されたものです。薬師寺における吉祥悔過法要は、大晦日より七日に至る一ヶ七夜いちかしちや休ヶ岡八幡宮やすみがおかはちまんぐうで勤められ、 翌8日より14日の一ヶ七夜は金堂に於いて法会ほうえが営まれました。
 吉祥天の功徳は時代を重ねるに連れ一般大衆化し、新年を迎えるに当たり幸福と平和を願い、ふくよかな姿から女性美にあやかろうと「美の女神」として崇められ、更に技芸の上達を願うまでに篤い信仰を集めて参りました。 そして各大寺の吉祥天像を巡りお徳にあやかろうと「吉祥天巡り」が盛んになりました。これが「初詣」のおこりです。現在は新年に神社を参詣することを「初詣」と言いますが、本来は新たな年の初めに氏神様を参詣することを「初参り」と言い、 吉祥天巡りをすることを「初詣」と言っていました。
 薬師寺の吉祥天像は、向かって右方に穏やかに歩みを進めるように描かれていて、その衣の裾は風になびいているような動きのあるお姿です。両手は前に差し出され、左手には神通力の特徴の持物である紅い如意宝珠にょいほうじゅを持し、 右手は伏せて胸前に添えられています。 お顔は太い眉や肉付きのよい頬、引き締まった口元、眉目の特徴をはじめ、美しい髪際の毛描きや頸筋の描き方等、唐の影響を受けた天平美人をそのまま写したように豊満かつ艶美な姿です。 ふくよかに表現された肢体には多彩な衣装を身に着け、羅のような布をなびかせ截箔きりはく繧繝彩色うんげんさいしきを併用して宝相華文ほうそうげもん四菱文よつひしもん宝尽文たからづくしもん等の彩色文様さいしきもんようが多用されています。
 作画は、目の細かい麻布に白下地を施し、淡墨で下描きして彩色し、截箔を置き更に細筆で画き起こしたもので、彩色部分の全体にわたって半透明の物質が上塗りされ顔料の剥落止めを果たしているようです。その為1200年を超えた今でも鮮やかな色彩が残されています。

合 掌



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