令和元年8月16日、金堂薬師三尊御宝前に於いて信徒総代各位臨席の下、一山僧侶と共に印鑰継承法要を厳修させて頂きました。
自分自身が1300年の伝統ある薬師寺の代表である管主に就任するとは、思ってもいない事でありました。
 想い返して見れば昭和43年の夏、友人と共に薬師寺を訪れたのが最初でした。 薬師寺の歴史も佛さまも何も知りませんでした。
私が奈良に遊びに行ってくると父親に話した処、それであるならば是非薬師寺へ行って高田好胤管長様にお目に掛って来なさいと言われ、
気軽な気持ちでお尋ねしたのが今日の始まりです。
 佛教の教えの基本は、縁起の法です。印度に於ける思想の基本は、全ての出来事は神が決める事に在りました。 人生を通して一つ一つの努力が報われるのではなく、「神の思し召し」のままで、如何に努力をしても報われることはない、自分自身が認識していないだけで、運命として全て神が決定するというものでした。
 私たちの中には、全ての人生は運命で決められていて、不思議な出来事を奇跡と思っている人がいます。 お釈迦様は、運命も奇跡もなく、全て縁によって成立すると説かれています。 私が薬師寺の僧侶となる縁は、その時生まれていたのだと今になって実感しています。
 生駒基達副住職も大谷徹奘執事長も松久保伽秀執事も安田奘基執事も高田管長の弟子です。 高田管長さんは、平成10年6月22日74歳で遷化されました。 お写経勧進に一生を捧げ、佛心ほとけごころの種まきを身を呈し続けられました。 遷化されて22年になりますが、いま私たち弟子は、師匠が実践してこられた「物で栄えて心で滅ぶ」、「かたよらない心、こだわらない心、とらわれない心、ひろくひろく、もっとひろく」の精神を再確認し、一つ一つを間違いなく実践していくことが最大の使命と考えています。
 平成20年7月から始まった国宝東塔の解体修理も早や12年が経過しました。 白鳳の華麗な姿を一人でも多くに皆様に見て頂き、1300年という歴史をこれから1000年先の未来に伝えることが最も大切な仕事です。 近い将来国宝東塔の落慶法要を迎えるにあたり、多くの皆様と共に喜びを分かち合いたいと願っています。

合 掌