果物が大好きな王子のために、王様は、広い御殿の庭に珍しい果物の実る樹を植えていました。番人は、毎朝広い庭を駆け廻り、美味しそうに実った果物を王子様に届けていました。ところが我儘な王子はろくに見もしないで、「こんな
あくる朝番人が果物を探していると、実っていないはずの樹の根元に見た事のない珍しい果物が落ちていました。拾い上げてみると、色艶といい、香りといい、見るからに美味しそうです。番人は、喜んでその珍しい果物を王子様に届けました。王子様は、目を輝かせて食べました。そして「明日から毎日この果物を持ってこい」と命令しました。番人は慌てて言いました。「果物のできない樹の下に落ちていたので、何処でとれるのか探しようがありません。勘弁して下さい」。傍にいた王様も怒鳴りつけました。「言い訳を言うな。王の命令じゃ、必ず持ってこい」。
番人は、珍しい果物を拾った樹の下に引き返してきました。ふと大きな樹を見上げてみると、茂った枝に鳥の巣があり、親鳥が雛に餌を与えていました。あの果物は親鳥が何処からか銜えてきて、雛に与える時に落としたに違いない。番人は、樹の上に隠れていて奪い取ってやろうと考えました。思った通り、親鳥は果物を銜えて帰ってきました。やすやすと手に入れることができた果物をあくる朝王子様に届けると、大喜びです。番人は鳥の餌を横取りする事はよくないと思いつつ、毎日盗み続けました。
親の子どもを思う心は同じです。一度や二度ならまだしも、毎日盗まれるので親鳥はすっかり腹を立ててしまいました。そこで親鳥は恐ろしい企みをたてました。今日は、呪いの樹の実を銜えて帰ろう。その実はいつもの果物と見分けが付きませんが、食べた途端に全身が
あくる朝番人は、その果物を持って御殿に出掛けました。するとその日に限って王様も「私も食べてみよう」とその果物を食べました。結果は言うまでもありません。
王子が悪いのか、王様が悪いのか、番人が悪いのか、親鳥が悪いのか、読み手であるあなたが決めて下さい。
『大智度論 第十七』
合 掌
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