ある山に沢山のハトが住んでいました。美味しい食べ物が沢山ありましたが、毎日同じものばかり食べているので、飽きてきました。一羽のハトが「美味しいものが食べたいなぁ」。別のハトは「木の実も草の実も食べ飽きてしまったよ」。「毎日同じ物ばかり食べたくもない」と文句の言いたい放題です。
一羽のハトが、贅沢ばかり言っているハト達を叱りました。「美味しい食べ物は町まで行かないと見つからないし、町はとても危険だよ。我儘を言わないで、安心して山の木の実を食べることにしよう」。でも贅沢なハト達は、「是非町へ連れて行っておくれ」とせがみました。「仕方がないなぁ。勝手なことをしてはいけないよ。」賢いハトに連れられて一斉に飛び立ちました。
山を越え、谷を越え、野を越えて、とうとう町にやってきました。ハト達は、王様の御殿にやってきました。御殿の庭には、珍しい食べ物が沢山ありました。「ここだ、ここだ」贅沢なハト達は、目を輝かして舞い降りました。「美味しいな、美味しいな、こんなご馳走は初めてだ」。
毎日ハトに庭を荒らされ困った掃除当番の人は、何とかしてハトを捕まえてやろうと考えました。「そうだ、丸々と太らせて王様のご馳走にしよう。ご褒美が沢山貰えるかも知れないぞ」。掃除当番の人は、大きな網を持って木陰に隠れ待ち構えていました。そんなこととは知らないハト達は、我先に食べたいご馳走を好きなだけ食べました。そして「今だ」と投げられた網に遂に捕まってしまいました。
翌日から籠に入れられたハト達は、餌をタップリ食べさせられ、だんだん太ってきました。「大変だ。今の内に逃げないと、食べられてしまうぞ。これ以上太ったら籠から逃げられなくなるぞ」。賢いハトは、何度も注意をしましたが、愚かなハト達は、言う事を聞かずに欲張って餌を食べていました。賢いハトは、太ったハト達を見て悲しくなり、どんどん痩せていきました。すっかり痩せた賢いハトは、籠から抜け出すことができました。「今からでも遅くはない。山で待っているから早く逃げてきなさい」。そう言うと賢いハトは、一羽寂しそうに山へ帰って行きました。
このお話は『六度集経』に登場する『ジャータカ物語』です。欲望という煩悩のままに食べ物を求め町に出掛けた愚かなハトの姿を私たちの日常生活に置き換えてみると、同じような失敗を沢山犯しています。自らの破滅を感じても、目先の欲望を優先して正しい行いの実践を後回しにする、取り返しのつかない行動の連続です。このお話は、失敗を改め、勇気ある正しい心の実践を教えてくださっています。
合 掌
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