中国戦国時代の故事に、「漁夫の利」という教えがあります。「鷸蚌いっぽうの争い」とも言い、しぎはまぐりを食べようとしたが、蚌に口ばしを挟まれ互いに争っていると、そこを通りかかった漁師が両者を捕らまえ、利益を得るお話です。
お釈迦様の教えにも同じようなお話が伝えられています。

 大きな川の河岸に2匹のカワウソが住んでいて、崖の上にはジャッカル(山犬)が住んでいました。崖の上から眺めていると、川には沢山の魚が泳いでいました。泳げないジャッカルは食べたいけれど魚を取ることができません。
そこへ大きな赤い魚が泳いできました。お腹を空かせたジャッカルは、魚を見て我慢しきれなくなり、滑り落ちない様に用心して川べりまで下りてきました。

すると2匹のカワウソも赤い大きな魚を狙っていました。ジャッカルが、岩陰からカワウソの様子を窺っていると、1匹のカワウソが川に飛び込み魚を追い掛けました。カワウソは、夢中で追い回し遂に魚の尻尾を掴みました。魚も命懸けです。魚は力一杯カワウソを川の底まで引っ張り込もうとしました。そこへもう1匹のカワウソが飛び込み、2匹がかりでやっと赤い魚を岸まで引き上げることができました。大きくて美味しそうな魚を見てカワウソは嬉しそうに見とれていました。ジャッカルも岩陰で早く食べたいなあと舌なめずりをしていました。するとどうした事でしょう、2匹のカワウソは取り合いを始めました。1匹は魚の頭を、もう1匹は尻尾を掴んで放しません。その様子を見ていたジャッカルは、争い始めたカワウソの前に出て行きました。カワウソはジャッカルに魚を上手く分けてくれるように頼みました。よしよしとジャッカルは3つに分けました。そして真ん中の一番美味しい処をくわえると、サッと崖を駆け上り何処かに行ってしまいました。頭と尻尾を取り合いしていたカワウソは、突然の出来事に悔しがりました。
この物語は、『南伝大蔵経400 ダッバ草花本生』に登場します。2匹のカワウソが争って喧嘩をしている間に、ジャッカルにあっけなく横取りされてしまいます。赤い魚を略奪したジャッカルの行為は、許されることではありません。

心は意思、感情、情、智慧等と表現され、精神的作用の基となるものです。心を司る本体も心である為、正しく運用しないと目先の事に惑わされ、善悪の判断が付かなくなってしまいます。
お釈迦様は、正しい修行の実践方法を優しく教えて下さっています。

合 掌



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