薬師寺僧侶の日々の仕事始めは、朝5時から金堂の薬師三尊様御宝前で勤められる勤行です。金堂に続き、東塔、西塔、休ヶ岡八幡社、若宮社、平木明神社、弁天社、八大龍王社、東院堂の聖観音菩薩様、大講堂の彌勒三尊様と仏足石及び十大弟子様、食堂の阿弥陀三尊様、不動堂、更には玄奘三蔵院伽藍に進み、天下泰平、五穀豊穣、風雨順次、世界平和等、それぞれに祈りを捧げさせて頂き、本坊に戻り大基堂で先住に感謝の誠を捧げます。合わせて一時間強の勤行三昧です。晴れの日も雨の日も風が吹いても休むことはありません。冬は寒さで身体の芯から凍えてきます。冬の寒さもさる事ながら、寒さに耐える場合は重ね着をすれば凌ぐことができますが、ここ近年の夏の暑さは特別で、汗がしたたり落ち、どちらかと言うと夏の暑さの方が厳しさの連続で、体力を消耗します。それでも、欠かすことなく千三百年間続けられている日課です。
 勤行が終了してから、全員で朝食を頂きます。これも一年中通して「茶粥ちゃがゆ」です。寒い冬は、お粥を頂く事により冷えたお腹が温かいお粥で満たされた時、命を頂いている実感があります。おかずは梅干、沢庵、奈良漬、煮昆布、海苔佃煮等です。
 贅を尽くした御馳走が毎日続くと、あっさりした粗食を頂くのが一番良く、「今日はお漬物でお茶漬がいいわ」と人間は身勝手な生き物です。
 味の濃い料理もさることながら、材料本来の味を引き出した薄味の粗食に本来の美味しさが存在すると思っています。

 食事を頂く都度、「食作法じきさほう」を唱えますが、その中に「粥偈じゅくげ」の一文があります。
持戒清浄人所奉じかいしょうじょうにんしょぶ 恭敬随時以粥施くぎょうずいじいじゅくせ 十利饒益於行者じゅうりにょうやくおぎょうじゃ 色力寿樂詞清辯しきりきじゅらくししょうべん
宿食風除飢渇消しゅくじきふうじょけかつしょう 是名為薬佛所説ぜみょういやくぶつしょせつ 欲得人天長寿楽よくとくにんてんちょうじゅらく 応当以粥施衆僧おうとういじゅくせしゅうそう
とあります。「持戒清浄人(戒を保ち清らかな人)に奉ずる所 恭敬(慎み敬って)して時に随ふて 粥を以て施さんに 十利(十種の効用)ありて行者を饒益にょうやく(人々に利益を与える事)せん しき(顔色が良くなる)りき(力が漲る)寿じゅ(寿命が延びる)らく(たとえ食べ過ぎても苦しくならない)詞清辯ししょうべん(言葉が爽やかになる) 宿食しゅくじき(食べ物がゆっくり消化して胃の中に適度に溜まり便秘にならない)とふう(風邪をひかない)と(空腹を満たす)とかつ(喉を潤す)としょう(消化が良い)の効果がある 是を名付けて薬と為すとは佛の諸説なり 人天長寿の樂を得んと欲せば 当に粥を以て衆僧に施すべし」
 毎朝美味しい茶粥を頂くことによって元気百倍です。

合 掌



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