ジャイナ教徒であったサッチャカに、お釈迦様は王たる道についてお話をされました。
 「王の中の王を転輪王てんりんおうと言います。転輪王はその身尊くして、四辺を統御し、また徳教ひとのみちを護る理想的な法王です。この王の行く処に刀仗つるぎもなく怨みもありません。法によって徳をき、民を安らかならしめてよこしまつみとを降伏おししたがえます。諸国の王は、転輪王の徳を喜び、転輪王に従って各々の国を治め、その教えに背かず、安んぜしめ正法のもとに王たる勤めを実践します」。
 サッチャカは更に教えを請いました。「王の臣僚しんりょう(多くの役人)が国家の大計を思わず、ただ己を利することのみを求め、賄賂わいろを取って政道をげ、民風をくずすたらせてしまいました。これが為に民は互いに相手をあざむくようになり、強い者は弱い者をしいたげ、貴い者は賤しい者を軽ろんじ、富んだ者は貧しい者を欺き、ひがごと(道理や事実と異なった不正)を以て正しい事実をげ、禍乱わざわいを増長させることになります。従って忠賢の士は隠れ退き、諂佞おもねり(相手の気に入るようにへつらう)の者が政権を取り、心ある者も危害を怖れて口を閉ざし、公権をみだりに用いて私腹を肥やし、民の貧しさを救わないようになってしまいました。日頃よりこの様に政令みことのりが実行されず、政道に弛廃ゆるみのできる訳は、国の政治を任せる臣僚の忠節を欠く為と考えています。この類の者を如何に見るべきでありましょうか」。
 「大王よ。この様な悪人こそ、民の幸福を奪う盗賊であって、国家の最も大きな悪賊と言わねばなりません。何故ならば、王を欺き民を乱して一国の禍乱わざわいの源を為す者であるからです。王はこの様な者を厳しく処罰しなければなりません。
 大王よ、次に法に従って政道をく王の国に於いて、父母ちちははの生育の恩を思わず、妻子のみに心を傾けて父母を養わず、又父母の持ち物を奪い、父母の教えに従わない者も、大きな悪の中に数えなければなりません。何故ならば、父母の恩は重く一生心を込めて孝養しても、尽しきれないからです。君に対して忠ならず、親に対して孝ならぬ者も、重い罪人として処罰すべきです。
 大王よ、第三に法に依って政治をく王の国中に於いて、佛法僧の三宝に対して信ずる事がなく、寺院を破壊し経典を焼き僧を捕らえて駆使おいまわし、佛法を破る行いを為す者も、重い罪です。
 これは、一切の善行のもとである民の信念を覆すものであるからです。
 これらの者は、すべての善根を焼き尽くし、自ら穴を掘っている罪人です。
 大王よ、この三種の罪が最も重く、従って最も厳しく罰せられるものであって、他はたとえ重い罪であったとしても、これらに比べれば軽いとしなければなりません。」

『大薩遮尼犍子所説大経』(パーリ佛典経蔵中部第三十六経)


合 掌



「加藤朝胤管主の千文字説法」の感想をお手紙かFAXでお寄せください。
〒630-8563
奈良市西ノ京町457 FAX 0742-33-6004  薬師寺広報室 宛