お釈迦様が王舎城におられる時、お弟子様を集めてお話をされました。
遠い昔、老人を見つけると捨てなければならない決まりのある国があり、国中の人々は、見つけ出す度に老人を捨てに行きました。
その国の大臣も、父親を国の掟によって捨てなければなりませんでした。親を思う心が深い大臣は、どうしても捨てることができません。そこで大地を深く掘って家を建て、そこに忍ばせて孝養を尽くしていました。
ある時、王様の前に神が現れ、二匹の蛇を差し出し「この蛇の雌雄を答えなさい。七日以内に答えられなければ王をはじめ国を滅ぼしてしまうだろう」と言いました。王様は、「正解を答えた者には賞金を与える」と国中に御触れを出しましたが誰も答えることができません。かの大臣は、家に帰って老父に訊ねると、「それは簡単なことです。柔らかい布の上に二匹の蛇を置くと、騒がしく動くのが雄で、動かないのが雌である」と教えてくれました。そのことを王様に伝えると、蛇の謎を解く事が出来ました。
すると神は質問を続け、真四角な栴檀の木を取り出して「どちらが先か根かを答えよ」と。大臣の父は「水の中に入れれば根の方が沈むであろう」と。更に神は、同じ大きさの二頭の馬を示し「どちらが母でどちらが子であるかを答えよ」と。「二頭の馬に干し草を与えよ。母馬は草を押して子に与えるであろう」と。大臣の父の教えがそれらの問いを満たしたので、神は大いに喜びました。そして「今よりこの国を護るであろう」と約束してくれました。
王様は約束通り「望みを叶えてやる」と大臣の賢さを讃えました。すると大臣は「老人を養うことができないと国の掟にありますが、私は父を捨てるに忍びないので、秘かに国の掟を破り、父を養ってきました。これらの答えは全て父の智慧です。どうぞ王様、今日より老人を養うことをお許しください」とお願いしました。
王様は心から喜び、老人を捨てることを改め、孝養を尽くさせて、もし老人を軽んじ、敬わない者は重い罰を受けるであろうと告げられました。『雑宝蔵経』
合 掌
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