昔々、太陽が進むよりも早く飛ぶ金色に輝くガチョウの王様がいました。
 ある日の事、ガチョウの中でも一番小さいチッタとクータが金色のガチョウの真似をして、太陽と競争をしたいと言い出しました。「駄目だ、駄目だ、まだ満足に飛ぶことも出来ないのに」と誰も許しません。でもチッタとクータは、なかなか諦めませんでした。「それなら内緒で飛んでみよう」と翌朝チッタとクータは高い山の頂上に行き、太陽が昇ってくるのを待ち構えていました。東の空が明るくなってくると胸が高鳴りました。もうすぐ日の出です。朝日がさすと同時にチッタとクータは夢中で飛びたちました。
 一所懸命羽根を振って太陽を追い掛けましたが、追いつきません。ちぎれる位羽根を振ったのにチッタが遅れ出しました。その様子を知った金色のガチョウは、「直ぐに助けに行くから頑張るんだ」と飛びたちました。王様のガチョウは忽ち追いつき、金色の大きな羽根を広げてチッタを乗せてやりました。「助けてー」と泣き叫ぶクータも金色の大きな羽根で受け止める事が出来ました。金色の羽根の上で二羽のガチョウはホッと一安心。王様に助けられたチッタとクータが戻ってくると、仲間は一斉に厳しく叱りました。身勝手な行動をして命をなくす処であったチッタとクータは、深く反省しました。
 王様のガチョウは皆を集めて「太陽より早いものがあるけれど、なんだと思う」と仲間に話しかけました。チッタとクータは、答えられません。王様は優しく「それは今与えられている命です」と教えました。『南伝大蔵経』

 元気を頂いている時は、気が付きません。しかし全ての命は失われやすく儚いはかなものです。太陽は、地上に光と熱を齎し、生命を育む力や、邪悪なものを浄化する力の象徴であり、崇高で偉大な畏敬の存在です。生きとし生けるものの奥底にある深い闇を破る働きを持つものが太陽です。
 何ものにも妨げられることのない智慧の光明は、自ら輝き照らす事により全ての存在に平等に降り注ぎ、分け隔てなく慈しみを与えて下さいます。

 チッタとクータは忠告を無視して自らの命を粗末にしていました。この物語は、王様である金色のガチョウの真似をして、太陽を追い掛ける身勝手な行動をし大勢の仲間に迷惑を掛けたチッタとクータの戒めを知ると共に、太陽よりも早い金色のガチョウとは何であるかを考え、命の大切さを改めて認識しなければなりません。

合 掌



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