山里の村は、秋祭りの最中でした。村人はみんな美しい着物を着て楽しそうに踊っていました。ピーヒョロ ドンドコドン。山の中までお祭りの音が聞こえていて、山から動物たちもお祭りを見に来ていました。その時何処からともなくいい匂いがしてきました。人々が匂いの主を捜してみると、四人の天人が、頭に美しい花輪を飾っていて、妙なる香りはその花輪から漂っていました。
素晴らしい香りは、この花だったのです。「それは何という花ですか」「これは深い山の中に咲くカッカールという花です」。それを聞いた一人の宰相はその花が欲しくてたまりません。「一本私に下さいませんか」すると天人は、「この花は誰にでも差し上げる花ではありません。そんなに欲しいなら、私の質問に答えて下さい。あなたは何か良いことをしましたか」どうしても花が欲しい宰相は「善いことは沢山しています」。何一つ徳の備わっていない宰相は、この花輪を飾れば素晴らしい徳の備わった人格者と思ってもらえるに違いないと考えました。すると天人は「善いことを一つ答えて下さい」宰相は直ぐさま「私は嘘をついた事がありません」それを聞いた天人は「それでは一本差し上げましょう」宰相は残りの花も欲しくなりました。「私は喧嘩もした事がありません」二人目の天人は「私の持っている花も差し上げましょう」さらに宰相は「私は子どもを虐めた事がありません」三本目も貰えました。「私は人の物を欲しがった事がありません」「それはなかなか関心な事です。この花も差し上げましょう」。
四本の花を手に入れた宰相は大喜びして、早速カッカールの花の冠を頭に被りました。そして被って踊り出した途端、頭がジーンと痛くなりました。直ぐさま冠を取ろうとしても取れません。それどころかどんどん深く食い込んできました。「痛いよ。早く取ってくれ」宰相は冠を取ろうとしても取れません。「痛いよ。苦しいよ」とのた打ち回りました。
その時宰相は「私は天人に嘘をつきました。すみませんでした。どうかお許しください」と四人の天人に謝りました。すると「許してあげて下さい」と四人の天人はお釈迦様にお願いしてくれました。そして天人はカッカールの冠を取ってやりました。
宰相は「これからは嘘は付きません」と懴悔しました。そしてお祭りの輪に入って楽しそうに踊り始めました。お祭りは最高潮になりました。
王様の閣僚の長である宰相は、自分を尊敬してもらうために国民を騙したり、違法行為によって自らの富を求めてはいけません。倫理道徳に関し人々に正しい生き方を教え、実践する事が国民の代表者です。高い名声を得ると謙虚さを忘れがちです。言動に絶えず注意をしなければなりません。 『南伝大蔵経 カッカール326 本生経』
合 掌
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