ある時、お釈迦様は多くのお弟子様と共に祇園精舎を出てコーサラ国のカーラーマ族の住むケーサプッタという街に着かれました。
 すると大勢の人々が集まり、お釈迦様に質問を投げ掛けました。「ある出家者は、この街に来て自分の教えを美しく讃え、他の教えをあざけり、非難いたします。すると間もなくまた他の出家者がこの街に来て、同様に自分の教えを讃え、他の教えを非難いたします。私たちはこれ等出家者の内、何れが真実を語っているのか、何れが虚妄いつわりを言っているのかという疑いが起こりました」

 お釈迦様は静かにお話を始められました。「疑い惑うのは最もです。人々よ、知らせや伝説をそのまま受け入れてはなりません。経に載せられているとか、そうかも知れぬという想像や、自らの見解に合っているからとか、又は名高い修行者の言葉であるというような事で受け入れてはなりません」。
 更にお話を続けられました。「人々よ、貪欲むさぼり瞋恚いかり愚痴おろかさに心を奪われ、生き物を殺し、盗みを働き、嘘をつく事は、その人にとって永劫の不利と苦悩なやみとなるでありましょう。これらの教えは、善であるか悪であるか、罪垢つみのあかのあるものであるか無いものであるか、智慧ある人にいとわれるものであるか喜ばれるものであるか、それに執着することが不利と苦悩を招く原因です。自らこの教えは善であり、利益や幸福を与えるものであると知った時、そのおしえに従わなければなりません。
 人々よ、欲を離れ、いかりを離れ、愚痴おろかさを離れるという事は、その人の利益みのためとなるものです。想い正しく思慮深く、慈しみの心と悲しみの心と喜びの心と平等の心を持って、全ての世界を憎みなく怨みなく、普く満たすことが必要です。
 この教えを実践しているきよらかな弟子達は、親切にして、瞋りがなく、けがれのない清らかな心を持っていて、今を安穏に過ごしています。」
 お釈迦様のお話を聞いたケーサプッタの人々は、「今日以降この命の尽きるまで、生涯帰依致す信者として私たちを弟子として受け入れてください」。と手を合わせました。このお話は『増一阿含経』に登場します。

合 掌



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