薬師寺東院堂の御本尊は、聖観世音菩薩様で、白鳳時代に鋳造されました。
 サンスクリット語のアヴァローキテーシュヴァラ(Avalokiteśvara)を、鳩摩羅什三蔵は「観世音」と翻訳し、玄奘三蔵は、観察された(avalokita )と自在者(īśvara)とに分け、「観自在」と翻訳しました。「観世音」や「観自在」は固有名詞で私達の名前に付けられている苗字と同じです。

 同じくサンスクリット語のボーディ・サットヴァ(bodhisattva)を「菩提薩埵」と翻訳し、一般的に菩提は悟りを求める薩埵で衆生を意味し、親しみを込め「菩薩」と呼んでいます。菩薩は一般名詞で、お釈迦様の正しい教えを実践している人の事です。
 その為、私たちもお釈迦様の正しい教えを実践している時は、正に菩薩で、皆様の苗字に続けて菩薩を付けて下さい。例えば、田中さんであれば田中菩薩、佐藤さんであれば佐藤菩薩です。でも正しい教えの実践が長続きすればいいのですが、直ぐに怠け心が起きてしまいます。その状態を「ボサッとしている」と言います。「ボサッとしている」の語源は、菩薩です。

 観自在が登場する経典は、般若の智慧の象徴として『般若波羅蜜多心経』の冒頭に登場する菩薩です。観自在菩薩は、六波羅蜜の修行を実践し縁起の法を体得しました。
 観世音の功徳が説かれている経典は、『妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五』で、観世音菩薩の妙智力は、能く世間の苦を救うと説かれ、広く智の方便を修して、十方世界に出現し、慈悲は広く優れた現世利益を持ち、観世音菩薩の名を呼んで助けを求めれば、三十三に化身して、何処へでも手を差し伸べて下さる菩薩として絶大なる信仰を得ています。
 観世音菩薩は、補陀洛山に住むとされていて、サンスクリット語のポータラカ (Potalaka) の音訳です。また熊野や日光が補陀洛になぞらえられ「二荒」を「ふたあら」と当て字し、後に音読みして「にこう」と発音し「日光」の字を当てて地名としました。

 平安時代になると飢饉や戦乱、疫病の流行など日常生活に不安が生じ、観音様の慈悲に救いを求める観音信仰が盛んとなり、補陀落は南の海上にあると言われたことから、小船に乗って補陀落を目指す「補陀落渡海」の信仰が盛んとなりました。この信仰が西国三十三所観音霊場の始まりで、一番札所が紀伊半島の南の端に建つ青岸渡寺です。
 また『観無量寿経』の説くところにより阿弥陀如来様の右脇侍として勢至菩薩様、左脇侍として観世音菩薩様が安置されることも多くあります。
 更にチベット佛教では、チベットの国土は観音浄土であり、その化身がダライ・ラマとされ、ラサのポタラ宮が居城であるとされています。

合 掌



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