三毒とは、貪欲とんよく瞋恚しんに愚痴ぐちの事で、善根を害する三つの毒です。
 貪欲とは、自己の欲するものを貪り求め、自己のこころに適うものだけを受け入れ、名声や利益を貪る、飽く事を知らない度を越えた欲の深い心です。
 瞋恚とは、自分の心に適わないものを怒り恨むことで、腹立ちや憎悪の事です。また生きとし生けるものに対する冷酷な心で、表情に現れ目を吊り上げて怒ることです。
 愚痴とは、一切の道理に通じる智慧に欠けた有様で、その行為が誤った行いの原因となります。道理を弁えない愚か者です。

 お釈迦様が祇園精舎に於いてお弟子様と煩悩についてお話をされていました。
 「お釈迦様の教えの三法とは、どのような教えですか。」の問いかけに「貪欲と瞋恚と愚痴である」とお答えになりました。「貪欲は罪の垢は少ないが、これを離れる事は遅い。瞋恚は罪の垢は大きいが、それを離れる事は早い。愚痴は罪の垢も大きくそれを離れる事も遅い。弟子達よ、ものの快いすがたを邪に思う事から未だ生じない貪欲が生じ、すでに生じた貪欲が増大するのです。また、ものの心に合わぬ相をよこしまに思う事から、未だ生じない瞋恚が生じ、已に生じた瞋恚が増大するのです。また、正しくない思慮によって未だ生じない愚痴が生じ、已に生じた愚痴が増大するのです。それゆえいつくしみのこころを貯える時は、貪欲と瞋恚は生じもせず、生じてもすぐに滅びてしまいます。そうして、この正しい思いによって愚痴も生ぜず生じても滅びるのです。」

 「弟子達よ、三毒の煩悩に付いて尋ねられたならば、この様に答えるがよい。」
 「貪欲に煽られ、貪欲にやぶられ、心を捕らえられる人々は自らをそこない、他を害い、自らと他を害う思いになり、心の苦悩を味わわねばなりません。貪欲を棄てるものにはこのような事がありません。また貪欲に心を捕らえられるものは、身と語と意によって悪業を重ねます。」
 「貪欲を棄てるものは、そのような事を行いません。また貪欲に心を捕らえられるものは、自利や利他の菩薩行に出逢う事がありません。」
 「貪欲を棄てるものは、これらの功徳をありのままに知ることができます。」
 「弟子達よ、貪欲は、人を盲目にするもの、智慧を滅ぼすもの、迷いに導くもの、悟りに入る妨げをするものです。瞋恚も愚痴も同様です。この貪欲、瞋恚、愚痴の上にこの禍を見て、貪欲を棄てよ、瞋恚を棄てよ、愚痴を棄てよと教えるのです。」
 「三毒の煩悩を棄てる方法は、正見、正思、正語、正業、正命、正精進、正念、正定の八聖道です。この道は誠に優れた道であり、勤め行う道です。」
 この教えは『増一阿含経』に説かれています。

合 掌



「加藤朝胤管主の千文字説法」の感想をお手紙かFAXでお寄せください。
〒630-8563
奈良市西ノ京町457 FAX 0742-33-6004  薬師寺広報室 宛