お爺さんとお婆さんと両親と二人の孫が、一緒に暮らしていました。
 お爺さんは寝たきりで、お婆さんが世話をしていました。でも永年の介護疲れで世話をするのを嫌い、ろくに食事を与えませんでした。だから両足は鶴の足のように痩せこけていました。
 お婆さんは、「おいぼれのくせに、いつまで生きているつもりや」と平気でお爺さんを罵ったりしていました。おっとうとおっかあにしてみれば自分の両親にも拘らず、素知らぬ顔をして見て見ぬふりをしていました。スムカとコミヤという名前の二人の孫は、お婆さんや両親に内緒で、お爺さんにこっそり果物を食べさせ、優しくお世話をしていました。

 ある晩、ふと目を覚ました二人の孫の耳に、隣の部屋からひそひそと話をしている両親の声が聞こえてきました。「私はお爺の世話など嫌だ。どうせ長くはない。殺してしまおうか」「親殺しは大罪だよ。」「大丈夫。明日の晩、墓場に穴を掘ってお爺を埋めてしまい、村へ引き返し、『泥棒に連れて行かれた』と大騒ぎすれば、誰も気付きはしないよ」。「上手くいくかなぁ」。スムカとコミヤは胸をドキドキさせながら唇を噛み締め聞いていました。

 あくる日の晩は月夜だったので、穴を掘るのに好都合です。両親は、こっそり家を抜け出し、月明かりに照らされた墓場に深い穴を掘りました。するとそこへ、鍬を担いだスムカとコミヤが現れ、「おっとう、大きな穴が掘れたなぁ」と声を掛けました。両親はビックリして「お前たちは、何しに来たんだ」と聞きました。スムカとコミヤは「おっとうとおっかあに負けないくらい大きな穴を二つ掘っておく為だよ」と答えました。「そんな大きな穴を二つも掘ってどうするつもりだ」「おっとうとおっかあも年を取って動けなくなったら、穴に放り込んで生き埋めにしてあげようと思うからだよ」。スムカとコミヤの言葉が、おっとうとおっかあの胸にぐさりと刺さったことは言うまでもありません。 『ジャータカ物語』