印度のある町にお酒屋さんがありました。主人は、見ただけでもケチで、ずるそうで、欲張りな顔をしていました。ロバを一頭飼っていましたが、ろくに餌を食べさせていませんでしたので、見る影もなく瘦せ細っていました。主人は、注文を受けたお酒を壷に詰め、ロバの背中にいくつも積み配達していました。荷物の重さに痩せたロバは、早く歩く事が出来ません。すると主人は、怖い顔をしておしりを鞭で叩き怒鳴りつけました。ロバは、歯を食いしばって辛抱しました。

 ある日主人はライオンの毛皮を買ってきました。「これさえあればお前に何も食べさせなくて済む。」と上機嫌です。
 夜になって主人は、ライオンの毛皮をすっぽりロバに被せると村の豆畑に連れて行きました。「さあお前の大好きな豆が実っているぞ。腹イッパイ食べるがいい。畑の番人が来ても慌てないで、ゆっくりと顔を向けるのだ。番人はビックリして飛んで逃げるに違いない。」ケチな主人は、ロバに盗み食いをさせて餌を食べさせてくれなくなりました。

 ロバは自分のしていることに大きな罪を感じ、声を出して悲しみました。
 その声を聞いた番人は、偽物のライオンであることがわかり、畑の向こうから村人と共に追い掛けてきました。ロバは、ライオンの毛皮を脱ぎ捨て、一目散に逃げました。番人に石を投げられて当たった背中や殴られた足は、ヒリヒリと痛みました。逃げ帰ったロバを見て、主人はカンカンに怒りました。「ライオンの毛皮だけでも大損だ。取り返すために直ぐに仕事だ。」と言って主人はいつもの倍程の酒壷を背負わせて「さあ、急げ」と鞭で打ちました。ロバは必死になって歩きましたが、ついにその場で倒れてしまいました。倒れた拍子に酒壷がぶつかり合って、一つ残らず割れてしまいました。
 主人は「大損だ。何でこんな酷い目に合わなければならないのだ。」と自分の悪行に気付くことなく喚き散らしました。

 自らの行為を棚に上げ、欲をかき、恥をかいていることが自覚できない愚かな主人です。私たちも自分は大丈夫と考えずに、自らに置き換えてみて下さい。

 このお話は、2世紀頃ヴィシュヌ・シャルマーによって書かれた印度の説話集『パンチャタクトラ』に登場するお話で、動物を用いる事で解り易くした児童向けの書籍です。政治、処世、倫理の説話が84話納められています。

 ところで、ロバの行く末はどうなったのでしょうか。この説話集にはその後のロバのことは記されていません。乱暴な主人から解放されて、幸せな暮らしを送ることができていればと願います。