阿梨咤ありた青年は、「欲を行っても修行の妨げにはならない」とお釈迦様に教えられたと、出鱈目を言いふらしていました。
 そこでお釈迦様は舎衛国の祇園精舎にお弟子様を集めて、執着を離れることの大切さと、出鱈目を言ってそしることは善いことではなく、「欲は修行の妨げである。そのような悪見は速やかに捨てなければならない」とお説きになりました。
 更に「欲には障礙しょうげが有る」「欲は白骨のようである」「欲は肉臠にくれん(肉の切り身)のようである」「欲はたいまつを把むようである」「欲は火坑あなのようである」「欲は毒蛇のようである」「欲は夢のようである」「欲は借金のようである」「欲は樹果のようである」と続けられ、更に「筏の喩」を話され、いつまでも間違いにこだわる愚さを説かれました。

 「旅人が道中で谷川に出逢う。こちらの岸は危ないが、向こうの岸は安らかである。川は甚だ深く、極めて広い。流れは速く多くの浪がたっているが、渡る為の船も無ければ、橋も無い。向こう岸に渡りたいので、葦や枝を集めて筏を作り向こう岸に渡ろう。安穏に渡りおわると、旅人はこう思った。『今この筏は、大いに役に立ち安穏に渡ることができた。私はこの大切な筏を右肩の上に置き、頭上に載せて持っていこう』と。」
 お釈迦様はお弟子様に尋ねられました。「今この筏は大いに役に立ち、安穏に谷川を渡ることができた。旅人はこの筏を捨てるには惜しい。担いで道を歩いて行こうと考えた。さあこの旅人は、適切な行動を取ったと言えるであろうか。」弟子たちは「いいえ」と答えました。お釈迦様は続けました。「では、どうする事が適切か考えてみよう。この筏のお陰で谷川を渡ることが出来た。だがこの先は不要である。この筏を岸辺に置いて道を進もう。このような判断こそ、適切な行動である」と。
 お釈迦様は筏の喩を示して、いつまでも拘る愚かな執着を捨てる大切さを説かれました。
 このお話は、『筏喩経ばつゆきょう』『阿梨咤経ありたきょう』として小乗経の中に説かれています。

合 掌



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