日常生活で何気なく使っている当て字(充て字・宛字)。当て字とは、代わりとなる字を充てたり季節感や状況を表記して現します。例えば、「
五月の蝿と書いて「うるさい」とは到底読めません。「五月蝿い」は、物音が大きすぎて耳障りである。やかましい。注文や主張や批判が多く煩わしい。細かくて、口やかましい。どこまでもつき纏われて邪魔である。物が多すぎて不愉快だ。しつこい。と辞書に登場します。
しかし本来の意味は、とても優れている。細かく行き届いている。技芸が素晴らしい等、細かい処まで配慮が行き届くことを「五月蝿い」と言い、「嫌になるほど素晴らしい」というのが当初の使い方でした。正しくは、「良い」事であったのが正反対の「悪い」「不愉快」な事になり、いつの時代からか大きく変化した一例です。
旧暦で五月は夏の真っ盛りです。蝿が一斉に繁殖する時期であり「五月蝿い」となり、蝿の飛ぶ様子から当て字が使われるようになりました。
「八釜しい」は、八つのお釜を並べて一斉にお米を炊くと、蓋がガタガタ音を立てて鳴る事から、八つの釜と充てられました。今では殆どが炊飯器でご飯を炊く為、この当て字からは全く想像もつきません。
「三和土」は、土や砂利に消石灰と
さんまが「秋刀魚」になったのは、獲れる時期とその体形が由来となっています。銀色で細長い形状をした姿は、刀のように見えるのでこの漢字が使われるようになりました。
中国原産のいちょうは、高さ30メートルに達する落葉高木です。「公孫樹」とは、老木にならないと種が実らず、孫の代になってやっと実ることから、公(祖父)孫樹の漢字が充てられました。「公孫樹」の種は「銀杏」として食用にします。東京大学の構内や大阪の御堂筋には街路樹として植えられ、秋の紅葉は
たばこ(tobacco)はもともと外来語ですが、16~17世紀にスペイン人によって東南アジアに伝来し、その後日本に広まったようです。スペイン語・ポルトガル語が語源のようですが、そのまま日本語化しており、「煙草」の当て字が使われています。平仮名で「たばこ」と表記されるのが一般的です。
この様に、当て字を用いて季節感や形状・歴史を表現することは、大和民族の表現力の豊かさ、感受性の高さを示しており、漢字と片仮名と平仮名の三種の文字を巧みに使い分け、更にアルファベット迄併記出来る素晴らしさは、世界中の言語で日本語だけです。
合 掌
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