「けんげしゃ茶屋」という落語で、「酒の肴に『めぇとあぶらげ』炊いて、『握飯』は、三角にして胡麻はあんまり付けんように。愈々葬連やがな」と出てきます。また「菊江佛壇」という落語でも「めぇの炊いたん」という一節が出てきます。
 最初は『めぇ』と『三角の握飯』がどのように葬連と関係するのか全く意味が分かりませんでした。
 「お結び」は旅行や野良仕事のお弁当であり球形か俵型です。形も「握飯」とは違います。本来、「三角の握飯」はお通夜の晩に作るものです。(千文字説法 38回 令和3年3月22日に詳しく書かせて頂いています)

 更に調べてみると、関西ではひじきのことを「めぇ」と言う方言で呼んでいます。「大阪で住んでいた頃、お婆ちゃんがよくひじきの煮物を作ってくれていました。美味しいひじきの煮物だったのでしょうが、子どもでしたのであまり美味しさに気づかなかったのが残念です。その時にお婆ちゃんが『今日は〇〇の日やから、めぇを煮たで』とか言っていた記憶があります。『〇〇の日』は、2の付く日とか、10の付く日だった記憶があります。発音は『めぇ』で、イントネーションは後が下がり、羊の鳴き声のめぇ~に近いですかね。」とインターネット(そのまま引用)に出てきました。
 「めぇ」は特定の日に食べる習慣があり、ある家庭では毎月18日に食べていた、と教えてもらいました。日を決めて炊いたのは、ご先祖様の月命日と思われます。だからそれぞれひじきを炊く日が違っていて、特定の日を決めていたようです。

 更に神様へのお供え物の「神饌」とされている海藻を、神聖で特別な食材として共食することにより、神様と人との結合を強める儀礼として尊ばれました。
 ひじきは滋養が豊富で、古くから健康食として親しまれてきた食品です。内陸部では新鮮な魚貝類の入手が難しく、保存に適した乾物にして食べられるようになったといわれています。縄文弥生時代の遺跡から、ひじきやアラメやホンダワラ類の海藻が発掘されています。また奈良時代になると、「神饌」であるひじきを、支配階級の人々は神様が食する高級食材として食していたようです。

 「めぇ」は、海藻の「和布(メイ)」「クロメ」「アラメ」「ワカメ」「ヒロメ」の「メ」で、古くから煮物の食材として使われ、特にひじきの煮物は、健康食・長寿食の惣菜として食卓に上り、9月15日(旧 敬老の日)を「ひじきの日」としているそうです。
 平成25年(2013)12月26日に放送されたNHK朝ドラ(連続テレビ小説)「ごちそうさん」の立呑屋さんのシーンでのことですが、悠太郎とめい子のお父さんが二人でお酒を呑んでいる店の壁に、メニューが貼ってありました。「めざし」「南京豆」「あたりめ」「おこうこ」などに混じって平仮名で「めい」の文字が有りました。後で「ひじきの煮物」ということが分かりました。
 また「めぇとあぶらげの煮物」「三角握り」だけではなく、「きざみ昆布と茄子の煮物」もお通夜や法事の料理として作られていましたが、現在は謂れや習慣が忘れ去られてしまっています。

 国語辞典に「習慣」とは、長い間繰り返し行ううちに、そうするのが決まりのようになったこと。その国やその地方の人々の間で、普通に行われる物事のやり方。社会的なしきたり。ならわし。慣習。心理学で、学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式。とあります。
 長い間繰り返し行われていて、そうすることが決まりのようになっている事柄には、必ず永年に亘って培われてきた歴史的意味が存在します。また個人的行動に限らず、社会的、文化的行動についてもいわれる「習俗」「しきたり」「習わし」などという定型化した行動は、これからも大切に伝えて行きたいものです。
 日常生活を通してご先祖様から伝えられた教えを大切にする習慣が、知らず知らずの内に養われていたのですね。

合 掌



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