昔、マガダ国の王舎城に神々しい姿の白象がいました。象は上品で高貴で品格がありました。
 マガダ国の王様は祭礼の祝典に出席する為、美しく装飾を施した白象に乗って街の中を進んで行きました。

 沿道はお祭りを祝う人で溢れ、王様が通り掛ると人々は美しい白象の姿に感嘆の声を上げました。その声を聞いて、王様は誇らしげに胸を張って大喜びです。王様は自分が褒められているとばかり思い込んでいました。途中で白象だけを褒め称えている事に気付くと面白くありません。気分を害した王様は、祭礼の祝典を無視して早々と宮殿に帰ってしまいました。

 いつまでも怒りが治まらない王様は、白象を山の崖から突き落として殺してしまおうと考えました。次の日、王様は白象を連れて象使いと共にマガダ国の東北にあるベープッラ山へ出掛けました。
 険しい崖まで来ると象使いに言いました。「象を立派に仕込んでいるが、それならば3本足で立たせてみよ」。白象は象使いの言う通り3本足で立ちました。それを見た王様は、「次は2本足で、次は1本足で立たせてみよ」と無理な命令を続けました。白象は言われた通り行動を続けましたが、なかなか崖から落ちません。王様は怒りを顕わにして「次は、空中に立ってみよ」と命令しました。
 そこで初めて象使いは、王様が白象を崖から落として殺そうと企んでいることに気付きました。そこで象使いは、白象に王様の企みを伝えました。「王様はお前が崖から落ちて死ぬことを企んでいる。この王様の下ではなく、お前に空を飛ぶ力があるならば、カーシ国の都であるバーラーナシーまで行こう」と告げました。すると白象は一声鋭い鳴き声を上げると、空に向かって飛び立ちました。白象と象使いは空を飛んでバーラーナシーまで来て王宮の庭に降り立ちました。
 そしてカーシ国の王様に今までの出来事を話しました。上品で高貴で品格がある白象を見た王様は、手厚く歓迎しました。その後、白象と象使いは、カーシ国で幸せな一生を送りました。

 並外れた白象の才覚に嫉妬し、白象に対する憎悪の念に狂ったことで、マガダ国の王様は苦しみを増大させ、自ら名声を失墜させることとなりました。『ジャータカ物語』

合 掌



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