薬師寺の御本尊であるお薬師様は、須弥座(宣字座)にお座りになっています。須弥座には、ギリシャ伝来の葡萄唐草文様、ペルシャ伝来の蓮華文様、印度伝来の蕃神(クベーラ)、中国伝来の四方神が彫刻されています。これらはシルクロード伝来の文様で、1,300年前の白鳳時代に伝えられ鋳造されたものです。日本に於ける四方神は、キトラ古墳や高松塚古墳に描かれていますが、薬師寺の須弥座には立体的な彫刻が施されています。

 旧字体は「龍」ですが、文字としては「竜」の方が古く、甲骨文字の時代からから使われています。竜は、中国神話に登場する伝説上の生き物です。天子、優れた人、大きい、明らかという意味があるようで、古来より神秘的な存在として位置づけられてきました。竜は神獣・霊獣であり、麒麟・鳳凰・霊亀とともに「四霊」のひとつで、中国では皇帝のシンボルとして扱われていました。 秋になると淵の中に潜み、その啼き声によって雷雲や嵐を呼びます。春には竜巻となって天空に昇り自在に飛翔するといわれています。
 南宋時代の博物誌で中国最古の類語辞典・語釈辞典である『爾雅翼じがよく』に竜の姿は、首〜腕の付け根〜腰〜尾の各部分の長さが等しく、角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼(幽霊)あるいは兎、身体は蛇、腹はおおはまぐり、背中のうろこは鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛に似ると記されています。また口辺に長髯ながひげをたくわえ、喉下には一尺四方の逆鱗さかさうろこがあり、顎下に宝珠を持っていると言われています。

 お薬師様の須弥座の東側には青龍、南は朱雀、西は白虎、北は玄武が彫刻されています。これは中国の自然哲学である五行思想に基づき、色と動物によりその方角を守護するもので、更に四季を当てはめています。東は青・竜・春、南は朱・雀・夏、西は白・虎・秋、北は黒・蛇と亀・冬を現し、中央は黄金に通じて黄色です。この五色が吹き流しの色となっていたり、大相撲の四方にある房の色で、中央の土俵が黄色です。また四天王像の顔の色にもなっています。春を青陽又は青春と呼び、夏を朱明、秋を白秋、冬を玄英といいます。
 薬師寺を参拝頂く時、令和6年の干支えとにちなんで竜の姿を探してみてください。雨や雲、水を司る神様であり豊穣や生命力を司る神でもある竜との出逢いをお楽しみください。

合 掌



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