今年も瞬く間に師走を迎え残りあと僅かとなりました。
 令和5年4月21日より薬師寺国宝東塔落慶法要を無事勤める事ができました。5日間に亘る落慶法要は、好天に恵まれ毎日2千名の皆様にご参拝頂き、合わせて1万名の皆様にお力と落慶の歓び、更にお励ましを賜りました。小衲も歴史的な大法要の導師を勤めさせて頂けた事は、誠に尊く有り難い事と改めて気持ちを引き締め、佛法興隆、天下泰平、萬民豊楽に勤めています。更に薬師寺の1,300年間護り伝えられてきた歴史を、未来に継承することが私共の使命と感じて日々の精進と共に、法相宗の代表として勉学研鑽に勤めております。

 晋山・落慶の記念として法藏館より『唯識 これだけは知りたい』も上梓することが出来ました。
 唯識学は佛教を実践する者にとって基本的でとても大切な思想ですし、薬師寺の僧侶である以上極めなければならない必須の教義です。現在は敬遠される難解な教義となっていますが、誰にでも理解しやすく納得して頂ける唯識の学術書となりました。唯識学はお釈迦様の教えの原点であり、今日に至るまでの歴史と人間の心の変化を隈なく表現できる貴重な書籍となりました。唯識を多くの人々にご理解と納得が頂ける書物として出版できたことは、佛教を学び実践する私にとっても、とても名誉な事で御座います。瑜伽唯識の教科書としてより多くの皆様にご愛読頂き、薬師寺を預かる一人としてこれからも佛心の種まきの努力を怠ることなく、唯識の尊さを伝えて続けて参りたいと願っております。

 さて薬師寺では、除夜の鐘をご参拝の皆様に撞いて頂いています。今年1年を振り返り、新たな年に向け祈りを捧げる大晦日恒例の行事で、多い年は2千人の参拝者に撞いて頂いています。109人目の方は、2回目の1番で、ご希望される全員に撞いて頂いています。鐘楼の横でお餅を焼いていて、撞き終えた方からお召し上がり頂いています。鐘を撞いてからお餅を頂くので金持ち(鐘餅)になると大いに喜ばれています。
 撞木を打つ撞座の位置は、奈良時代の古い時代のものほど高く、鎌倉時代以降は次第に下部に位置します。更に撞座の位置と竜頭の方向関係は、平安時代中期以前の鐘は2個の撞座の中心を結ぶ直線と竜頭の長軸線とは直角に交差していて、それ以降の鐘は、撞座の中心を結ぶ直線と竜頭の長軸線とが一致するように変化しました。前者を古式、後者を新式と称しています。

 奈良時代の鐘で現存する梵鐘は、銘文が記されている梵鐘が4口、銘文が記されていない梵鐘が12口伝えられています。奈良時代の梵鐘は概して大型で、撞座の位置と竜頭の方向関係は全て古式です。大衆を招集する時や朝夕の時を知らせるために用いています。
 現存する最古の梵鐘は文武天皇2年(698)在銘のある京都右京区・妙心寺の梵鐘(国宝)で、もとは嵯峨・浄金剛院の梵鐘でした。最大の梵鐘は奈良・東大寺の梵鐘(国宝)で、高さ 3.86m口径 2.71mで重さは何と26トンもあります。

 薬師寺の梵鐘(重要文化財)は、奈良時代に鋳造されたもので、享禄元年(1528)の火災の折、鐘楼から落下して大きくヒビが入っています。その為昭和51年、金堂落慶を記念して同じ規模で鋳造制作され、現在は朝夕5時に5打突いて時を知らせています。

 令和6年も沢山の明るい話題に包まれる一年になることを願っています。寒さが厳しくなって参りましたが、くれぐれもご自愛の上よいお年をお迎えください。
 これからもより一層ご指導ご鞭撻頂きます様重ねてお願い申し上げます。           

合 掌



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