「娑婆しゃば」とは、サンスクリット語の「sahā」(サハー)を音写したものです。私達が生活している世界の事で、「忍土」とか「忍界」と漢訳します。「サハー」本来の意味は「忍ぶ」で、現実の世界のことです。この世界に命をいただいている生きとし生ける人(衆生しゅしょう)は、内に様々な煩悩があり、外には風雨寒暑などがあって苦悩に耐え、たえず不満を抱いています。苦しみから解放できるように2,500年前、お釈迦様が出現されて正しい教えを示し教化して下さいました。

 お薬師様の東方浄瑠璃浄土や、阿弥陀様の西方極楽浄土と違って、娑婆世界は「汚辱おじょく」と苦しみに満ちた「穢土えど」であると認識しています。
 日々の生活を送る中で、地震や台風、集中豪雨など自然災害を避ける事が出来ません。ウクライナとロシア戦争は対岸の火事のように他人事と思いがちですが、決してそうではなく、日本にも危害が及ぶかもしれません。新型ウイルス感染症やインフルエンザなど、病魔から逃れることは出来ません。想像を絶する凶悪事件が頻繁に起きて、日々安心して暮らすことが出来なくなりました。

 『華厳経』に「水を飲んで蛇は毒を作り、同じ水を飲んで牛はお乳を作る」とあります。同じ水でも受け取り方、生かし方で毒にもなればお乳にもなります。
喜びと感謝の心で受け取るのも受け取り方。不平不満で受け取るのも受け取り方。不満を言えばそのものが良くなるかと言えば、決して良くはなりません。今与えられた物や事柄が有り難いと感謝する心が大切です。

 『阿弥陀経』に、「池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔」とあります。極楽の蓮池には、青い蓮華からは青い光、黄色の蓮華からは黄色い光、赤い蓮華からは赤い光、白い蓮華からは白の光が輝き、えも言えぬ清らかな香りが漂っているとあります。つまり、極楽世界では、それぞれがそれぞれあるがまま光り輝いているというのです。ところが娑婆世界では、比較し優劣を付けています。自らの考えに合致しないと不満を述べ、怒りを顕わにしています。
 浄と不浄が対立している訳ではなく、自分の心が穢れていると、この現実世界が「穢土」として現れ、心が浄らかであれば、同じ世界が「浄土」として示顕されます。

合 掌



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