世界には山や谷や川や海があります。そこでは沢山の生命が命を繋いでいます。人間だけでなく、動物も魚類も昆虫も植物もあります。その種類は多く、名前も姿もそれぞれ異なっています。

 垂直に切り立った断崖の割れ目から、真横に生えている松の木を見付けました。この地球上は広いのだから、何もそんな場所に生えなくてもいいのにと思いました。暫く眺めていて、この松は「あれが欲しいこれが欲しい」と欲望を出すことなく、文句も言わず生きていて、おまけに光合成をしながら二酸化炭素を酸素に変え、環境保全に努めて世のために役立っていることに、思わず頑張れと声を掛けていました。

 世界の到る所に様々な草や木が生えています。小さな草もあれば、中くらいの草、大きな草もあり、低い木もあれば、見上げるほどの大木もあります。 そこへ雲が空いっぱいに湧き出て雨を降らせ、すべての草木を潤します。その雨を受けて、根も茎も枝も葉も元気を頂きます。小さな草は小さいなりに、大きな木は大きいなりに受け取る量はまったく異なりますが、小さな草が大きな木を羨む事はありませんし、大きな木が小さな草を見下すこともありません。

 お釈迦様の教えは唯一つです。すなわち降る雨は同じですが、それを受けて育つ草木は、雨の恵みを欲張りもせず与えられただけを等しく受けています。環境の異なる私たちが等しくお釈迦様の教えを受け、悟りをひらくことが出来る事と同じです。
 この雨の譬えは、世界中に存在するあらゆるものに等しく教えを説かれた様子を表わしています。この草木に降りそそぐ平等の雨は、あまねくお釈迦様がすべての人々をお浄土へ導く教えを示しています。お釈迦様がこの世に出現されることを大雲が湧き起こると表現し、全世界を覆い私たちを優しく暖かい心で包み、人々が等しく幸せとなるよう教えられています。
 このお話は『妙法蓮華経 薬草喩品第五』に説かれています。

合 掌



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