JR琵琶湖線守山駅を下車し、駅前から近江鉄道バスの佐川美術館前行バスに乗り約25分、琵琶湖大橋を右手に見ながら湖岸道路を南下、暫く行くと佐川美術館の表示が見えてきました。整然と整備された駐車場の入口にこの暑さの中、制服に身を包んだ係の人が出迎えてくれました。守山駅から行く方法が近いですが、JR湖西線堅田駅からのルートもあります。その場合多少時間は掛かるようですが、琵琶湖大橋を渡るルートです。琵琶湖の東岸と西岸が最も狭くなった地を北湖と南湖と分けています。この境界線辺りに掛けられた琵琶湖大橋は、昭和39年9月に完成しました。橋の中ほどでアーチを描くように26mの高さになっていて、車窓からの眺めはすこぶる快適です。左の窓からは琵琶湖を抱くように山々が連なり、右の窓からは大津の街や湖岸の建物を遠くに臨む事が出来ます。青い空を写し込んだ湖面は、紺碧に輝いていて、橋の頂上付近で車のスピードを緩めてくれたならば更に解放感が広がり絶景です。湖上から空に放り投げられたような、湖面を船で進むのとはまた違った感覚にいざなわれます。琵琶湖を満喫する秘密スポットを発見したような気持ちになります。

 佐川美術館は、正面ゲートを潜ると眼前に鏡のような水面みなもが広がります。軒を支える丸い柱の列以外無駄を全て取り除いた切妻の建築物が二棟。この美術館は、佐川急便株式会社創業40周年記念事業の一環として琵琶湖を望む美しい自然に囲まれた近江・守山の地に平成10年3月22日に開館しました。敷地の大部分を占める水庭の美しさと相まって「光と影」の「空間」を際立たせ、周辺の風景との一体感を演出しています。「水に浮かぶ美術館」の中に、現代の絵画・彫刻・工芸分野の第一人者である日本画家の平山郁夫氏、彫刻家の佐藤忠良氏、陶芸家の樂吉左衞門氏の作品が収蔵されています。
 「平和の祈り」と名付けられた平山郁夫館は、昭和20年8月広島に於いて原子爆弾に被爆した体験が切っ掛けとなり、「平和を祈る心」を佛教伝来の道であるシルクロードに重ね合わせ描かれた収蔵作品300点の中から60点余りが展示されています。
 平山郁夫画伯は、昭和34年玄奘三蔵法師の求法の旅をテーマにした「佛教伝来」が院展に於いて高い評価を受けて以来、玄奘三蔵が旅をしたシルクロード佛教東漸の道や東西文化の交流をテーマにした佛教画と共に、平和を求める絵画を描く現代日本画を代表する画家です。
 「ブロンズの詩」と名付けられた佐藤忠良館は、所蔵作品100点の中から50点が展示されています。洋の東西を越えて人間の飾らない美しさを表現し追求した作品群で、子どもや女性をテーマに常に温かな眼差しで見つめてきた「人間の美」が観賞できます。
 「守破離」をコンセプトに水庭地下に開設された樂吉左衞門館は、展示室と水庭に浮かぶように設えられた茶室があり、十五代樂吉左衞門氏の作品と茶の湯空間が一体となって日本の伝統文化を満喫する事ができます。「守破離」とは、千利休の「規矩作法 守りつくして 破るとも 離るるとても 本をわするな」の歌から採ったものです。

 このように昭和平成を代表する芸術家により日本の美の探究がなされており、関西を訪れたお客様をおもてなしするに相応しい場所です。市街地に近過ぎる事なくまた遠過ぎる事なく、閑静な佇まいと共に豊富な水を利用した環境は、琵琶湖という自然資源の存在を上手く取り入れた素敵な美術館です。
 西洋絵画とは違った日本画の微妙さ、彫像の柔らかさ、土がおりなす火の激しさ等日本に於ける伝統文化の粋を満喫し、日本文化に親しく接して頂けることと確信します。

合 掌



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