昔、不思議な呪文を使って星空から宝石を降らせるお坊さんがいました。
 一年に一度、赤と青と黄の星が集まる月夜に呪文を唱えると、天から美しい宝石の雨が降ってくるのでした。
 ある日お坊さんは弟子を連れて隣の国へ出掛けました。幾日も山を越えて行く途中、500人の山賊に捕まってしまいました。山賊は「金を出せ。金がなければ弟子に取ってこさせろ」「お師匠様、急いで取って参ります。でも、どんなに苦しくても、宝石を降らせる呪文は決して使わないでください」と、弟子は山を駆けおりて行きました。お坊さんは山の牢屋に入れられ、不安な毎日を過ごしていました。窓から夜空を見ていると、その日は赤と青と黄の星が集まる日でした。お坊さんは牢屋に閉じ込められて恐ろしくてたまりません。早く自由になりたいお坊さんは、弟子に言われた約束も忘れて自分が助かる事ばかり考えていました。「空から宝石を降らすことが出来るから許してくれ」。山賊は、お坊さんを牢屋から出し、広場に座らせました。お坊さんは花を飾って星を拝みながら、呪文を唱えました。すると見る見るうちにキラキラと山を照らしながら、宝石の雨が降ってきました。山賊は先を競って大喜びで拾い集めました。
 この時、新たに谷底から500人の泥棒が攻めてきました。刀や槍を振り回し山賊を倒しました。「山賊から宝石を奪い取ったけれど、俺たちにも宝石を降らせろ」と怒鳴りました。「駄目です。三つの星は離れてしまいました。星と月は動いてしまい、来年まで待たなければ降らすことはできません」。泥棒は怒ってお坊さんを谷底へ突き落してしまいました。500人の泥棒は宝石を奪い合って仲間同士喧嘩になりました。みんな倒れて二人だけ残りました。二人で宝石を分け酒盛りをしようと、一人はご馳走を買いに出掛けました。買い物に出掛けた泥棒は、ご馳走の中に毒を入れて食べさせ、宝石を独り占めにしようと考えました。もう一人の泥棒は、帰ってきたら一と打ちにしてやろうと考えました。
 数日後、弟子が戻ってきました。お坊さんは何処にもいません。山賊も泥棒も死んでいました。藪の中の二人も相打ちで倒れ死んでいました。お師匠様が自分との約束を守らなかったから、沢山の人が死ぬことになったと、弟子は深く悲しみました。人間の醜い争いの原因となった宝石は、足元でキラキラと輝いていました。『ジャータカ物語』

 500人の山賊と500人の泥棒が宝石を奪い合って、全ての人が死に絶えてしまいました。人間の欲望の深さから、尊い命を奪い合うことになってしまいました。更にお坊さんは自分が助かりたいばかりに約束を破って呪文を唱え、多くの人を破滅の底に落としてしまいました。「ひとりの人間の欲望は、ヒマラヤ山を黄金にして、それを倍にしても満たすことができない」と『法句経』に書かれています。

合 掌



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