新型コロナウイルス感染症も3年を超え今だ猛威を振るっています。またウクライナでは戦乱が止むことなく、大勢の国民が毎日不安な日々を過ごされていて、ロシアの暴挙に憤りを覚えます。何れも一日も早く終息、終結する事を願って止みません。混乱する世界情勢の中、神佛のご加護を受け穏やかな生活の営みに感謝の誠を捧げさせて頂いています。
 薬師寺では本年4月21日~25日の5日間にわたり、国宝東塔の落慶法要を厳修させて頂きます。白鳳時代に建立された三重塔である東塔は、1,300年間一日も欠かすことなく大勢の人々が塔の前で手を合わせ、祈りや願いを捧げてこられました。その祈りや願いは、喜びの願いであったり苦しみや悲しみの願いであったかもしれません。その思いは、形となって残されているのではなく、柱や壁や瓦に沁み込んでいると思います。だからこそ、聳えたつ東塔を目の当たりにすると、言葉に表現できない重厚さと大いなる感動を覚えずにはいられません。
 1,300年の間、大勢の先人の真心を未来に伝える事が薬師寺を預かる僧侶の役目であると認識しています。この度、薬師寺の歴史に記される東塔解体修理落慶法要の導師として携わることの出来る喜びは、言葉では言い表せない計り知れない大きな責任です。
 薬師寺の歴史年表で、令和5年の国宝東塔の落慶法要は、千年先の未来まで記録に印される薬師寺歴史の大切な節目として加えられます。その歴史的事業に立ち会う事の出来る喜びは、人生で最高の喜びです。この出会いに巡り合うことの出来る計り知れない縁を、有り難く受け止めさせて頂いています。
 12年の歳月を掛けての解体修理は、ただ単なる国宝建造物の延命措置ではありません。昭和平成令和の時代に命を頂いている大勢の善男子善女人の手によって東塔の落慶を祝い、喜びを分かち合う精神を未来に継承し、「物で栄えて心で滅ぶ」と言われる今日、千年後の人々に令和5年がコロナ感染症や世界の紛争だけではなく、信仰に満ちた素晴らしい時代である事を示すまたとない機会です。
 東塔落慶法要を大勢の皆様の心豊かで大きな真心により、無事厳修する事が出来るよう願っています。ご参拝をお待ちしています。

合 掌



「加藤朝胤管主の千文字説法」の感想をお手紙かFAXでお寄せください。
〒630-8563
奈良市西ノ京町457 FAX 0742-33-6004  薬師寺広報室 宛