令和5年癸卯年の奈良は、穏やかな新年を迎えることができました。
 家族連れをはじめ大勢の皆様に薬師寺をご参拝頂きました。それぞれの祈りや願いを込めてお薬師様と吉祥天様の御宝前で手を合わせ、祈りを捧げて頂きました。併せて、お写経道場では、大勢の皆様が書初めのお写経を書写して頂きました。

 初詣にご参拝頂いたご家族で、5歳くらいの男の子から「ほとけさまはかみさまなの」と質問を受けました。自分自身当たり前と思っていて、考えた事も無い素朴な質問でした。私は「神様ではなく私たちと同じ人間だよ」と答えました。
 そして、「佛様は、今から2,500年前にインドの釈迦国の王子様としてお生まれになったんだよ。本当のお名前はゴータマシッダールタと言って『お釈迦様』や『ブッダ』とも呼ばれているんだよ。王子様だからお城の中でとても優雅な暮らしをされていたんだけど、お城の外では多くの人々が、貧しく苦しい生活をしていることに気が付いたんだよ。そこで王子様は、国中の全ての人々が幸せになる方法を見付けたいと考えたんだよ。」その男の子は真剣な眼差しで、私の話を聞いてくれました。
 「そこで名誉も財産も全て捨てて、王子様であるゴータマシッダールタは、国を出て6年もの間、厳しい修行をしたんだよ。でも肉体を痛めるだけの苦行は間違いで、大勢の人々を幸せにすることはできない事に気が付き、あっさり苦行を捨てて、菩提樹という大きな樹の下に移って初心にかえり、皆が幸せになるための正しい教えを見付ける事が出来たんだよ。佛様となったゴータマシッダールタは、その教えを弟子に伝え、弟子はその教えを文章に書き残したんだよ。その教えが『佛教』で、書き残された文章が『お経』なんだよ。佛教は日本だけでなく世界中に広まって、いつも穏やかで優しい心をいだき、正しく生きるための方法を教えてくださっているんだよ。」とお話ししました。「君が正しく生きるための大切なことを、お釈迦様は変わらずに教えてくださっているから2,500年も続いているんだよ。」すると男の子は、ぴょこんと頭を下げ「ありがとう」と言いました。
 私は「今からお薬師様の前で手を合わせようね。お手々の皴と皴を合わせて幸せだよ。」と言うと、「うん」と言って小走りにお薬師様の処へ駆けて行きました。あどけない後ろ姿を見えなくなるまで見送りました。

合 掌



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