「オウムの消防」は、ジャータカ(ⓈⓅJātaka本生譚ほんじょうたん)と呼ばれる初期佛教の経典にあるお話です。お釈迦様が菩薩であったころ、人や動物として命を受けていた前世の物語です。『雑宝蔵経 ぞうほうぞうきょう』に収められています。

 昔、ヒマラヤ山(雪山せっせん)のふもとに大きな竹林がありました。そこには多くの鳥や獣や昆虫と一緒に、一羽のオウムが仲良く暮らしていました。ある時、にわかに強風にあおられ竹と竹が擦れて火花が出て火事になりました。火は瞬く間に燃え広がり、辺りは炎の海になりました。獣や鳥や昆虫たちは、逃げ場を失ってうろたえていました。
 オウムは長い間住居を与えてくれた竹林の恩に報いる為、更に多くの鳥や獣や昆虫を災難から救うために火事を消さなければと、近くの池に入り翼を水に浸し、燃え盛る火の上に注ぎました。何度続けても火の勢いは、一向に弱まりそうにありません。
 オウムの慈悲と献身の心は、この様子を眺めていた帝釈天たいしゃくてんを感動させました。帝釈天たいしゃくてんは空から降りてきて、オウムに語り掛けました。「オウムよ、お前の翼で運ぶことのできる水はほんの数滴で、この広い竹林の火事を消すことなど、とてもできる事ではない。」するとオウムは「この猛火を見て、私を育ててくれた竹林をただじっと見ていることはできません。たとえ消すことが出来なくとも、今私にできる事をしているだけです。」
 帝釈天たいしゃくてんはオウムの偉大な志に感動し、大雨を降らせて火事を消してくださいました。
消火につとめたオウムは、お釈迦様の前身のお姿でした。

合 掌



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