観自在菩薩から始まり菩提薩婆呵までの262文字から成る『般若心経』は、玄奘三蔵が貞観23年(649)5月24日、長安郊外終南山翠微宮で翻訳された経典です。
 経題の意味は①摩訶(大いなる)②般若(智慧によって)③波羅蜜多(幸せに至るための)④心(中心となる)⑤経(教え)です。 お釈迦様をはじめ、観自在菩薩様、舎利子様、その他多くのお弟子様が登場するお経のあらすじは、「多くのお弟子様がお釈迦様を囲んで修行していました。その中で、観自在という名前の菩薩様がご自身の修行の成果を、舎利子様をはじめ多くのお弟子様にお話しをされました。その内容は、般若の行により、静かな安らぎの境地に到った事についてのお話でした。また呪文を繰り返し唱えることがとても大切であることを教えられました。そしてお釈迦様によって、その成果が素晴らしいものであり、また実践に優れたものであるとのお諭しがあり、多くのお弟子様は般若の行の実践をされました」という内容です。
 それでは、静かな安らぎの境地とは何でしょうか。 ①観自在菩薩は般若の行を実践することによって、一切の 苦厄くやく を度す事ができました。②菩提薩捶は般若の行を実践することによって、涅槃を 究竟くきょう する事が出来ました。 ③三世諸佛は般若の行を実践することによって 阿耨多羅三藐三菩提あのくたらさんみゃくさんぼだい を得る事が出来ましたとあります。全て般若の行の実践によって悟りを得る事が出来ましたとあります。
 そして呪文とは、大神呪だいじんしゅであり、大明呪だいみょうしゅであり、無上呪むじょうしゅであり、無等等呪むとうどうしゅであって、声に出してお唱えすることによって全ての苦しみを取り除き、真実で偽りの無いものであると教えています。  
 登場人物で、二度登場するのがお弟子様の舎利子様です。お釈迦様の在世中、愛弟子は1,500人から2,000人おられたと言われています。その中でどうして舎利子様が二度も登場するのでしょうか。
 般若心経の教えの真髄は、「縁起の法」です。「原因」があって「縁」が働いて「結果」が生まれる。全ての出来事で、「奇跡」は起きない。お釈迦様はこの「縁起の法」をお悟りになりました。永久に変わる事の無い「不滅の真理」です。
 暁の明星が東の空に輝く西暦紀元前531年12月8日の早朝お悟りを得られました。お悟りになった「真理の法」である「縁起の法」を最初に伝えたのが6年間苦行を共にした5人の修行者(五比丘)でした。しかし五比丘は「真理の法」である「縁起の法」を深く理解できませんでした。五比丘の一人であるアッサジは歩みながら「ゴータマ シッダールタ(お釈迦様)は、縁起の法を説き給う」と口ずさみ歩いていました。擦れ違いざまその言葉を耳にした舎利子様は、立ち止まってその人に「今何を口ずさんでいたのですか」と問い掛けます。するとアッサジは、「ゴータマは縁起の法を説き給う」と再度答えました。舎利子様がその内容を問い質すとアッサジは明確に答える事が出来ません。そこで舎利子様は更に「誰が唱えているのか、私でも聞く事が出来るのか」と訊ねました。するとアッサジは、「近くにおられるので誰でも聞く事が出来ます」と。「それでは、案内してほしい」と頼みました。そして舎利子様は、共に修行を重ねた目連様を伴いお釈迦様にま見えました。
 舎利子様は法を聞き直ちに悟る事が出来、弟子となりました。続いて目連様も悟る事が出来、弟子となりました。
 お釈迦様も自ら悟った「縁起の法」を最初に深く理解してくれた舎利子様を弟子の第一人者であり代表者として『般若心経』に登場させたと思います。 舎利子様がお釈迦様の基本の教えとなる「縁起の法」を説く『般若心経』に二度登場する所以です。

合 掌



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