薬師寺では毎年12月29日、早朝からお鏡餅をつき、午後1時から餅つきに使用したお湯を使い、白い浄布じょうふで佛さまに積もった埃のお掃除をします。この法要を「お身拭みぬぐい」といい、年の瀬の恒例行事です。
 金堂本尊薬師如来は、私たちの身体の病、心の病を治してくださる佛さま、いわゆるお医者さまです。脇侍の日光、月光がっこう 両菩薩はさしずめ看護師さん、昼も夜も分かたず私たちを護って下さる佛さま。1日も欠かすことなく私たちの健康を守り、悩み苦しみを共に分かち合い励まし助けてくださる、まさに苦しみを代わってくださる「代受苦だいじゅく」です。 来る日も来る日も数え切れないほどの私たちの願い事を聞き届けてくださるお薬師さまも大変です。ですから1年間に積もった埃をきれいにお掃除すると共に、代わって受けて下さった苦しみを取り除いて楽にしてさしあげます。
 40~50分で薬師三尊が艶々と美しい光を取り戻します。すると私たちの心も清々しくなってまいります。これはただ単に佛さまをお掃除するだけでなく、同時に私たちの心の鏡も清らかにするのです。姿を映す鏡は汚れや曇りがあるとはっきり映りません。だから鏡を磨きよく映るように致します。
 しかし、心は汚れていても曇っていても自分ではなかなか気が付かず、そのままになってしまいます。そこで佛さまのお掃除をしながら自らの心の鏡を磨き、心の雑草を抜き取って清らかにするのです。
 お釈迦さまの教えに、「諸悪莫作しょあくまくさく修善奉行しゅぜんぶぎょう自浄其意じじょうごい是諸佛教ぜしょぶっきょう 」とあります。これは、「諸々の悪をすことなか れ、善いことを実行しなさい。そして自ら進んで心を浄くする。これが佛さまの教えの基本です」ということです。
 12月のことを「報恩月」と申します。父母に、御先祖さまに、人生の先輩に、妻に、夫に、子供に、兄弟姉妹に、友人に、仕事を与えてくださっている周囲の人々に、そして神佛に対して1年間の誠を捧げるのです。些細なことでも過ちを起こしたことに対して懺悔さんげする謙虚な心、わびる心を持つことが大切です。 それに対し、1月は「発心月」と申します。新たな年に目標を掲げ、よしこれから頑張るぞ、と誓いをたてるのです。皆さまも謙虚に報恩月をすごし、よき発心月をお迎えください。

合 掌



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