昭和43年、高田好胤管長によって始められて以来、薬師寺は 般若心経のお写経勧進による白鳳伽藍の復興を進めています。平成15年に落慶した大講堂は高さ17m、間口45m、奥行き25mにも及ぶ巨大木造建築です。平成8年春、天神地祇てんじんちぎ のお恵みを頂戴するため、春日大社のご奉仕をいただき、神佛合同による起工式を厳修し復興できました。そのおり、般若心経の一文字を河原の小石に書写し、「 一石写経いっせきしゃきょう」として起工式に持参していただくようにお願いしました。大講堂の柱の下に納め、基礎を固めることが目的で、起工式当日には1万人を超えるお写経結縁者の方々が参列、ご持参くださった小石には般若心経の一文字だけでなく、262文字の全文が丁寧に書写されたものもあり、総数35,000個、重さにして3tを超える一石写経が納められ、46本の丸柱の下に敷き詰められました。昭和43年以来お写経勧進を実践してきた積み重ねから、建築材料へも直接お写経しようという動きになり、大講堂の屋根に葺く、73,600枚の全ての瓦に般若心経の一文字をお写経しようと、「一文字写経瓦」の勧進が始まりました。
 ご寄進いただく人の手で一枚いちまいの瓦に般若心経の一文字と名前をお書きいただき、願いを込めて納めて頂きました。瓦へのお写経が済むと、結縁者の皆様から「御本尊である弥勒様の足元も護らせてほしい」と声があがり、1,741枚の御影石製基壇石と、348枚の大理石製須弥壇石に般若心経の一文字をお写経していただきました。
 屋根瓦に天の恵みをいただき、須弥壇石、基壇石に地の御霊みたまを受け、般若心経のお写経によって佛舎をお護りすることにより私たち自身が佛さまにお護りしていただく。お写経をすることにより大講堂の無事完成を祈ることで、逆にお堂の続く限り、千年二千年と佛さまにお護りいただく。私たちは尊い命を授かって生きていますが、いつかは必ず命が尽きる時を迎えます。現世が終わりではなく、薬師寺が続く限り佛さまにお護りいただきたい。今生こんじょうの終焉を悲しみとして伝えるのではなく、希望の始まりとして未来につないでいきたい。 その思いがこれほどまでに般若心経に包まれた建物はこの大講堂が初めてではないでしょうか。高田管長が憂えたように、「物で栄えて心で滅ぶ」昨今、便利さの追求のみで真心が置き去りにされてしまっている現実を見たとき、白鳳伽藍の復興が一人でも多くの人々の祈りの心を頂戴して建てられるお堂でなければどんなに立派なお堂が完成しても佛さまは喜んで下さらない、と感じます。そんな昭和、平成の心を未来に伝えることができるよう、精いっぱい努めています。

合 掌



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