アヒンサカは、コーサラ国で500人の弟子を持つ師匠の下で修行していました。頭がよく、力も強く、美青年でした。師匠の教えを学んで深く理解し師匠の高弟となりました。
 師匠の妻はアヒンサカを好きになってしまい誘惑しました。真面目なアヒンサカは誘惑を拒むと、師匠の妻はその悔しさに復讐を思い立ち、自分で服を破り裂いて、髪を振り乱しアヒンサカに乱暴されたと泣きながら訴えました。 訴えを聞いた夫である師匠は怒り、アヒンサカに剣を渡して「明日より100人を殺して、その指を切り取り首飾りを作りなさい。完成した時お前の修行は成就する」と命じました。アヒンサカは師匠の命令通り街に出て人々を殺し、指を切り取り首飾りを作りました。 人々は殺人鬼であるアヒンサカをアングリマーラ(指鬘外道)と呼び恐れました。アングリマーラの出現に人々は悲鳴をあげて逃げ惑い、街中が大騒ぎとなりました。
 首飾りの完成まであと1人と思って辺りを見回すと、そこにお釈迦様が現れました。 「そなたは邪教に騙されています。身も心も安らかになるには、早く悪夢より覚めなければなりません」お釈迦様の尊いお姿と慈悲心に接して、アングリマーラは、祇園精舎まで付いて行き、お釈迦様の弟子になりました。 お釈迦様と出会うことで佛縁が生じ、殺人鬼アングリマーラは改心し帰依しました。佛弟子となったアングリマーラ(アヒンサカ)は「お釈迦様はいつも慈悲をもって迷いを除いて下さる。 これからも私たちをお導き下さい」苦しみのどん底にあった殺人鬼アヒンサカは、お釈迦様の教えを実践しました。
 お釈迦様の教えはどんな極悪人でも救う教えです。早速アヒンサカは、街へ托鉢に出掛けます。すると、一人の女性がお産に苦しんでいるのに出会いました。それを見たアヒンサカは、昨日まで殺人鬼であった手前どうすることもできません。 しかし今日は憐れみを感じて「お釈迦様に帰依して以降殺生を犯したことがありません。私のこの徳によってそなたの悩みは癒えるでありましょう」アヒンサカは、勇気を出して女性のもとへ行くとそのように言い、女性の苦しみを和らげたといわれます。 アヒンサカの心はガラリと変わったのでした。しかしながら周りの人々はそうはいきません。アヒンサカが托鉢に歩いていると、改心したアヒンサカと知らず、過去に殺人鬼であるため、周りから石を投げられたり、棒で殴られたりもしました。 痛みに耐えて祇園精舎に帰ると、お釈迦様にこう言います。街へ托鉢に出掛けると、今までの経緯から多くの人びとから迫害を受けるようになりました。 「私は自分の煩悩によって多くの命を奪い、アングリマーラと呼ばれるようになりましたが、幸いにもお釈迦様のお導きで修行に専念しています。お釈迦様はよくぞ私のような極悪人を憐れんで、お助け下さいました。お陰様で心は明るく、痛みも苦痛ではありません。」

 アングリマーラとは、私たちの心の姿を例えていて他人事ではありません。お釈迦様がお説きになっているのは、煩悩に苦しむ私たちの心の姿です。そして、どんな極悪人でも、全ての人が本当の幸せを頂く道を教えて下さるのが佛教です。
本当の幸せとはどんな幸せなのか、どうすればその幸せを頂く事が出来るのか、自らの心の有り様を他人事とせず深く考えなければなりません。 正しい教えに導かれた慈悲の心を実践してこそ佛道に帰依することです。多くの人々の幸せな姿を共に喜ぶことが最大の幸せです。

合 掌



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