お盆の季節に因んで、あるお寺のお説教の会で住職が「地獄と極楽」のお話をされました。命あるものはいつか必ず尽きてしまいます。すると、黄泉の世界に行く為に誰もが三途の川を渡らなければなりません。
その時、生前の行いによって、善業を積んだ人は橋が架かり、悪業を働いた事の無い人は船が準備され、悪業を重ねた人は自分の力で川を渡らなければなりません。
中でも悪業を働いた覚えがないと思っている人は、自分が認識していないだけで実は大きな罪を犯している、という事に気付いていません。とお話をされました。そのお話を聞いていたお祖母さんは、とても心配になりました。
今まで進んで善業を積んだ事も無く、よくよく胸に手を当てて思い出してみると、賽の河原では自分に船は出ないし、ましてや橋も架かる筈がない。泳いで渡るとしても泳ぐ事が出来ません。いったい三途の川幅がどれ位あるのだろうかと不安でなりませんでした。
お説教が済んだ後、勇気を出して恐る恐るご住職にお尋ねしました。三途の川の川幅はどれ位あるのですかと。するとご住職は、あっさりハイ25mですと。
それを聞いてお祖母さんは不安な気持ちを抱きつつ自宅に戻り、家族が揃っている夕食の席で突然スイミングスクールへ通いたいと話しました。家族全員賛成はしてくれたもののビックリ。口を揃えてどうしたのと尋ねられましたが、恥ずかしくて口に出せませんでした。
すると有り難い事にお嫁さんは、それじゃ私がスイミングスクール迄車で送迎をしてあげるよ。ととても協力的です。お祖母さんのスイミングスクール通いが始まりました。お祖母さんも一所懸命練習を重ねたお蔭で、だんだん泳げるようになってきました。
ある日、いつものようにお嫁さんの車で送って頂いたその日、玄関でインストラクターの先生に出会いました。お嫁さんは、車から降りいつもお世話になっている事のお礼を言うと同時に先生に尋ねました。どれくらい泳げるようになったのですかと。
すると先生はよく頑張っておられますよ、もう20mは泳げるようになりました。でもいつも25m25mと仰って、あと目標まで5mです。もう少しですから送迎を宜しくお願いします。そうですか、有難う御座います。
でも25m泳げるようになっても、ターンだけは教えないで下さいね。
三途の川も地獄も極楽も存在するのかどうかわかりません。私たちの心には「善の心」と「悪の心」の二つの心が存在します。でも日常生活の中で、怠け心を起して悪業を働かないようにする為の戒めがあってもいいと思います。
そんな考えから地獄思想が生まれてきたのではないでしょうか。
合 掌
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