お釈迦様は、最後の説法で自灯明じとうみょう 法灯明ほうとうみょうをお説きになられました。
この世に命を受けた限り必ず通らなければならない厳粛な死があるという事を、弟子たちにお示しになったお言葉です。西暦紀元前486年2月15日満月の輝く夜半、多くのお弟子様や動物や虫にまでも見送られながら最後を迎えられました。

 弟子たちよ、おまえたちは、おのおの、自らを灯火とし、自らをよりどころとせよ、他を頼りとしてはならない。この法を灯火とし、よりどころとせよ、他の教えをよりどころとしてはならない。
わが身を見ては、その汚れを思って貪らず、苦しみも楽しみもともに苦しみの因であると思ってふけらず、わが心を観てはその中に「我」はないと思い、それらに迷ってはならない。全ての苦しみを断つことができる。 私がこの世を去った後も、このように教えを守るならば、これこそ私の真の弟子である。

 弟子たちよ、今は私の最後の時である。しかし、この死は肉体の死であることを忘れてはならない。肉体は父母より生まれ、食によって保たれるものであるから、痛み、傷つき、壊れることはやむを得ない。私の本質は肉体ではない。 悟りである。肉体はここに滅びても、悟りは永遠に法と道とに生きている。だから私の肉体を見るものが私を見るのではなく、私の教えを知るものこそ私を見る。私の亡き後は、私の説き残した法がおまえたちの師である。この法を保ち続けて私に仕えるようにするがよい。

 煩悩の賊は常におまえたちのすきを窺って倒そうとしている。もしおまえたちの部屋に毒蛇が住んでいるのなら、その毒蛇を追い出さない限り、落ち着いてその部屋に眠ることはできないであろう。煩悩の賊は追わなければならない。 煩悩の蛇は出さなければならない。おまえたちは慎んでその心を守るがよい。

 弟子たちよ、私はこの人生の後半45年間において説くべきものは全て説き終わり、なすべきことは全てなし終わった。私にはもはや秘密はない。内もなく、外もなく、全てみな完全に解き明かし終わった。
 弟子たちよ、今や私の最後である。私は今より涅槃に入るであろう。これが私の最後の教誡きょうかいである。

この教えは、『長阿含経じょうあごんきょう 第二 遊行経ゆぎょうきょう』と『遺教経ゆいきょうぎょう』 に説かれています。

合 掌


木版涅槃図(江戸時代)



「加藤朝胤管主の千文字説法」の感想をお手紙かFAXでお寄せください。
〒630-8563
奈良市西ノ京町457 FAX 0742-33-6004  薬師寺広報室 宛