「
転輪聖王であるダルハネーミ王は、息子に告げました。「殺生・偸盗・邪淫・妄語・飲酒をしてはならない。また適度な食事を取りなさい。」このようにして悉く転輪聖王は、正法を擁護されました。
息子は灌頂王となり父王である転輪聖王の教えに従って統治しました。ところが、貧困な者には恵むことがなかったため、貧困な者は盗心を起しました。人々は彼を捕らえて、灌頂王の前に連れ出して言いました。
「大王よ、この者は人の物を、盗心によって取ったのです。」灌頂王はこの男に尋ねました。「お前が人の物を、盗心によって取ったのは、事実か。」「大王よ、事実でございます。」「なぜだ。」「大王よ、私は生きることができなかったからです。」
そこで、灌頂王はこの男に財宝を与えて言いました。「お前はこれらの財宝によって、自ら生活し、父母を養い、妻子を養うがいい。そして、仕事に励んで、沙門や婆羅門に対して福利ある供養をなし、天上の安楽な果報を得て、天に生まれるようにしなさい。」
この男は灌頂王に答えました。「大王よ、かしこまりました。」
国民は「たとえ人々が、人の物を盗心によって取ったとしても、大王は財宝を与えてくれるのだ。」と噂をしました。それを聞いて、悪心を起こした彼らは思いました。
「さてと、我々も人の物を盗心によって取ることにしよう。」 一人の男が人の物を盗心によって取りました。
その時、灌頂王は思いました。「もし私が、人の物を盗心によって取った者に対して財宝を与えるとしたならば、このような偸盗は増長するであろう。私はこの男を存分に懲らしめ、これを根絶するために彼の首を絶つことにしよう。」
灌頂王は、この男を荒縄で後ろ手に固く縛り、頭髪を剃り、鼓を打ってお触れを出し、市中を悉く引き回し、彼を存分に懲らしめ、盗心を根絶するためにその首を断ってしまいました。
それを聞いて、更に悪心を起こした彼らは「各々が鋭い刃を持つことにしよう。そして、人々の物を盗心によって取り、人々を恐怖に陥れ、命まで奪おうではないか。」と、平和な家庭から物を盗心によって取り、人々を恐怖に陥れ、命まで奪ったのでした。
国中でしばしば泥棒が発生します。王様は、自分の政治のせいで貧困者が増え世間が乱れると思い、泥棒に財宝を与え許してやります。すると更に泥棒が増え世間も不安と不信を招き混乱状態となり、争いが絶えなくなります。
王様は、優しさと思って今まで行ってきた事が、正しい行動であったのか、やっと考える様になりました。財宝を与え許してやる事をやめると、街中は落ち着きを取り戻しました。正しい行動をはき違えると世間は混乱します。
善法とは慈愛を備えた心であり、慈悲心によって行き渡り、平等心によって行き渡ります。これこそ財宝と言えるのです。
合 掌
このお話は、『
写真は、お釈迦様悟りの地ブッダガヤの菩提樹
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