【神宮寺の出現と悔過法要】
 奈良時代各地の神社に建立された神宮寺には、神の為に造立された「佛像」が安置され、悔過けかや読経などの佛教儀礼が行われました。
悔過とは国民が自ら犯した罪過を、僧侶が佛に声明懺悔さんげし、その功徳によって 攘災じょうさい招福を祈る法会であり、佛像に対する最も基本的な礼拝の形式です。
 薬師如来を本尊として行われる薬師悔過、観音菩薩を本尊とする観音悔過、吉祥天を本尊とする吉祥悔過等が諸大寺で勤められました。その中で日本各地の神々の名を列挙した神名帳を読み上げる作法が取り入れられました。 堂内に全国の諸神を勧請して道場の守護と法会の成満を願うための重要な儀礼として次第に加えられました。佛教儀礼の悔過は、日頃知って犯している罪もあれば、知らず知らず犯している罪もあります。 いずれの罪も反省する事が懺悔です。更に守らなければならない基本的な約束事を佛教では戒律といい、その戒律を再確認して誓約する事を悔過という儀礼を通して実践します。それを佛前だけでなく神前に於いて互いに補完し合うために神佛の習合が必要であったのでしょう。
 『続日本紀』神護景雲元年(767)正月己未の条に「勅 機内七道諸国 一・七日いちしちにち間 各於国分金光明寺 行吉祥天悔過之法 因此功徳 天下太平 風雨順次 五穀成熟 兆民快楽 十方有情 同霑此福どうてんしふく」とあり、 諸国国分寺に於いて「吉祥悔過」が勤められた事が知られています。 吉祥悔過は奈良時代に最も重視された護国経典の一つである『金光明最勝王経こんこうみょうさいしょうおうきょう』の「大吉祥天女品だいきちじょうてんにょぼん」によって勤められる悔過行法であり、吉祥天を御本尊として天下太平・風雨順時 ・五穀成熟・兆民快楽等の功徳を祈願するものです。 これらの祈願は本来神に祈るものでありましたが、天部の神の名を冠した佛(吉祥天)に祈願する特異な形と変化してきました。ここでも神が佛教儀礼の本尊となる素地を生み出したのです。神護景雲改元の詔には、伊勢神宮外宮の上空に突如現れた七色の瑞雲は、 諸大寺に於いて『金光明最勝王経』の講読と吉祥悔過を勤めたことにより「三宝・諸天・天地の神々」が喜んで瑞雲を現したものであり、この瑞雲の示現を以て「神護景雲」と改元したとあります。吉祥悔過が神佛習合を推し進める重要な役割を果たす一因となりました。

≪つづく≫

合 掌



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