今月はお釈迦様の説話をお届けしています。
お釈迦様の目指された佛教は難解なものではなく、一日一日を心豊かに生きる為、幸せをいただく為の方法をわかりやすく教えて下さっています。

 森に、五百匹の猿が住んでいました。満月の夜、大きな樹の下にある井戸を見つけました。中を覗くと水面には美しい月が映っています。猿の王様は「今まで手に入れる事が出来なかった物は何もない。しかし一つだけどうしても手に入れる事が出来ない物がある。 それは夜空に輝くお月様だ。今日はどうしても手に入れる事が出来なかった満月がこの井戸の中に落ちているぞ。今日こそ手に入れてやる。お月様を拾い出して、暗闇をなくそうではないか」と言いました。 他の猿は「賛成です。でもどうやって月を拾い出すのですか」と尋ねました。「私は取り出す方法を知っている。」猿の王様は「自分が先ずこの樹の枝に掴まるから、お前たちは順番に私の尾を掴むのだ。その次その次と尾を掴めば井戸の中まで下りて行き、 最後に私が月を拾い出すことが出来る。」と言いました。一同の猿は手を叩いて喜び早速実行に移しました。
王様が樹の枝にぶら下がると、次の猿、次の猿とぶら下がり、最後の猿が手を伸ばしてぶら下がろうとした時、重みで樹の枝が折れ五百匹の猿はザブンと音をたてて、井戸の中へ落ちて全員死んでしまいました。

 このお話は『摩訶僧祇律まかそうぎりつ』に説かれています。
 すべての行動は、心から起こります。この心は無明むみょう(煩悩の根源)と愛着から起きます。間違った心から生まれる行動は、夢のようであり幻のようであり陽炎のようなものです。この貪りの心から生まれた世界は、迷いの心で世間を見ているので、愚かな心、間違った欲望を作りだします。 迷いの心から離れて真理を知れば、悟りを得ることができます。
 この逸話の教訓は、身の程知らずの望みを持つと失敗するということです。そして水に映る仮の姿(水面の月)を真理(本物の月)と思って追い求める愚かな心、間違った欲望を戒める逸話です。


合 掌

※写真は、お釈迦様成道の地ブッダガヤの大塔です。



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